研究実績の概要 |
これまでの脳波を用いた研究から,隠匿情報検査において,事件に関連する項目を隠そうとすると,その項目に対して右前頭皮質が賦活することがわかった(Matsuda & Nittono, 2018)。この賦活は,覚醒の上昇を抑えようとする認知処理や回避動機づけに関連すると推測される。しかし,参加者が隠そうとする項目を回避したいと感じているのか,実際に回避する行動がみられるのかは,まだわかっていなかった。 そこで本年度は,隠そうとする項目を回避する行動傾向があるのかを,潜在連合テストのひとつであるマネキン課題(Krieglmeyer & Deutsch, 2010)を用いて検討した。さらに,隠そうとする項目に対する主観的な接近-回避傾向を,質問紙で測定した。 成人47名が実験に参加した。参加者は,一つの物品を盗んだ。その後,その物品名を含むマネキン課題を行った。各物品名にマネキンを接近させるときにかかる時間と回避させるときにかかる時間を比べた。また,課題後,各物品名に対する主観的な接近-回避傾向を,Visual Analog Scaleにより測定した。 その結果,関連項目(窃盗品名)に対しては,主観的には回避傾向を示すが,行動的には(非関連項目と比べて)接近傾向を示すことがわかった。隠匿情報は,顕在的には避けたいと答えても,潜在的には接近行動と結びついている可能性がある。模擬的に盗んで隠している項目に対する自己関連性の高さが,このような接近傾向の背景にあるのかもしれない。
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