質感は空間や時間とともに感覚モダリティをまたぐように存在する。感覚モダリティをまたぐように存在する情報は異なる感覚間をつなぐ重要な手がかりとなるだけでなく、感覚統合の結果としてまた新たな知覚体験を生起させる。本研究はこれまで個別に研究されてきた時間知覚と質感知覚の関係性を多感覚統合の観点から明らかにすることを目的とする。具体的には感覚モダリティをまたがった情報間の時間ずれが、直接同時性や同期性を訊くと識別できない場合であっても、質感知覚として符号化されると識別できる場合について、その符号化のメカニズムや情報処理の階層性を解明することを目指す。 今年度はさまざまな刺激を用いて、視聴覚の時間知覚と質感知覚を比較した。具体的には、料理(卵割り)動画、ピアノ演奏動画、茶道動画(茶筅の動き)を用いた。卵割り動画の場合は殻の固さ、ピアノ演奏動画の場合は鍵盤の重さ、茶道動画の場合は茶筅の柔らかさを質感評価の対象とした。実験では、さまざまな視聴覚の時間ずれを持つ動画刺激について、同時性判断、時間順序判断、質感評価、違和感判断を行った。実験の結果、同時性判断、時間順序判断、質感評価、違和感判断の結果には乖離があることが示された。また乖離の度合いは用いた刺激動画の種類や問うている質感評価の内容によって変化することが示された。また上記の実験の他、スピーチ動画についても実験を実施した。また今年度は国内学会発表3件(日本視覚学会ほか)、依頼講演1件(エレクトロニクス実装学会)、本の執筆1件(感覚融合認知:多感覚統合による理解)を行った。
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