研究課題/領域番号 |
17K04516
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 美穂子 北海道大学, 大学文書館, 特定専門職 (70455583)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 帝国大学 / 大学院 / 女性研究者 |
研究実績の概要 |
平成29年度は「旧制大学院への女性の進学実態とその分析」を研究課題として、「1918~1945年における帝国大学大学院への女性の進学状況」に関する資料調査を進め、化学専攻の進学者に着目して論文を発表した。 まず、1918年より1945年までの帝国大学の大学院を対象とし、女性の進学状況を一覧化して「攻究」分野を確認した。1918~1945年における帝国大学の大学院への女性進学者は、大学別でみると、東北帝国大学に14名(理学分野3名、法文学分野11名)、東京帝国大学に3名(法学分野2名、農学分野1名)、大阪帝国大学に3名(理学分野)、北海道帝国大学に1名(農学分野)が確認された。本科(分科大学・学部)の学生として女性の入学を認めていなかった東京帝国大学以外は、出身校である帝国大学の大学院へ本科卒業後に女性たちは進学していた。1916年から女性の学士をいち早く輩出していた東北帝国大学が、大学院進学者数も他帝国大学と比べると圧倒的に多かった。 化学専攻の大学院進学者2名(丹下ウメ、阿武喜美子)に着目すると、両者共に、大学院進学の目的が学位取得のためではなく、有機化学の研究・実験ができる場を求め続けた結果であったことがうかがわれた。大学院修了後、両者は、それぞれ研究者の道を歩み、その研究実績は博士号の学位取得をもたらした。結果としては、帝国大学大学院は、有機化学を専門とする女性研究者の育成として機能したといえる。 また、丹下ウメには眞島利行教授、阿武喜美子には藪田貞治郎教授が指導をしたように、帝国大学大学院への女性の進学には、女性を受け入れる指導教授が不可欠であった。女性の研究意欲と、受け入れ側の理解・支援・指導があってこそ、帝国大学大学院は女性研究者の育成をなし得たことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、戦前戦後期の女性のキャリアパスにおける大学院進学の位置付けを考察する前段階として、1918年より1945年までの帝国大学の大学院を対象とし、女性の進学状況を一覧化して「攻究」分野を確認することが予定通りできた。 また、女性初の大学院進学者をみた「化学」専攻に着眼して、丹下ウメ(東北帝国大学大学院1918~1920年在学)と阿武喜美子(東京帝国大学大学院1938~1941年在学)の大学院進学に関する資料を、国立国会図書館、東北大学史料館等において調査・収集し、大学院進学の動機とその背景、進学を支援した人的なつながり等を考察し得た。 帝国大学の大学院へ進学した上記2名以外の女性たちについても、回想録・追悼文・小伝等の収集を進めて、その学歴・キャリア・人的つながりに関する調査を進めた。 以上により、おおむね目的に沿って計画通りに研究が進展しているものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、引き続き、「旧制大学院への女性の進学実態とその分析」を研究課題として資料調査を進め、論文を発表する。 化学専攻以外の進学者に着目して、理系分野では数学と生物学(動物学・細胞学・応用菌学)について、文系分野では法学・文学・史学(思想史学・美術史学)・心理学について、それぞれの大学院進学の動機とその背景、進学を支援した人的なつながり、分野間の相違点や共通点等を分析し、大学院が女性進学者のキャリアパスに果たした機能等を考察することが中心となる。 また、1946年~1950年代についても、大学院への女性の進学状況を調査する。資料調査先としては、(1)国立国会図書館東京本館・関西館、(2)東北大学史料館、(3)京都大学大学文書館、(4)九州大学大学文書館、(5)日本女子大学図書館、(6)お茶の水女子大学附属図書館、(7)奈良女子大学附属図書館、(8)明治大学図書館等とする。 上記調査と並行して、「1950~1960年代新制女子大学の大学院の設置に至る過程とその背景」を研究課題とした資料調査も進める。調査先は国立公文書館、調査は①新制女子大学の大学院設置認可申請文書のほか、②新制女子大学の教員任免文書、③新制女子大学の大学設置認可申請文書を含めた新制女子大学に関する公文書群である。文書点数が多く、かつ、利用決定通知書の発行までに時間がかかる場合が多いため、複数回に分けて調査に赴くこととする。
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