研究課題/領域番号 |
17K04524
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
田端 健人 宮城教育大学, 大学院教育学研究科高度教職実践専攻, 教授 (50344742)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 探究の対話p4c / 学級コミュニティ / セーフティ / スクールカースト / 子どもの哲学 / 話し合い活動 / 討議倫理 / 討議教育 |
研究実績の概要 |
本年度は、(1)実践研究の発展と(2)成果の発信に力点を置いた。 (1)実践研究の発展:小学校教諭の研究協力者を増やし、これまでの宮城県白石市立O小学校に加え、宮城教育大学附属小学校と福島県天栄村立湯本小学校を拠点校として、探究の対話p4cの実践と研究に取り組んだ。 (a)附属小学校の歴史上初めてp4cを実践し、特別活動の時間と道徳科にて継続し、公開研究会にて実践発表した。特に、特別活動では、附属小学校伝統の話し合い活動の理念と実践を土台とし、子どもの哲学p4cと討議デモクラシーの理念と実践を融合し、「討議教育(Deliberative Education)」と名付けた新たなタイプの話し合い活動を構想し、実験的に実施し、稀有な成果をえた。 (b)湯本小学校では、研究協力者の星克明教諭が中心となり、ドイツのp4c実践者Britta Saal博士を招き、ドイツの子どもと交流する対話を実施した。同校では星教諭が中心となり、年間を通じて継続的に探究の対話p4cに取り組み、年度末にはノンパラメトリック法を活用し、対話する力のアンケート結果の有意差検定も行い、報告書『探究の対話(p4c)について』にまとめた。 (c)O小学校を継続的に訪問し、追跡調査を行った。同校では、探究の対話p4cの実践の中核を担っていた教員の多くが昨年度末で異動となり、対話のファシリテーションが昨年度ほどの水準では難しくなった。愛着障害が疑われる児童に焦点化して参与観察を継続したところ、昨年度までは周囲の児童との人間関係が好転していたが、今年度に入り関係悪化の場面が多かった。この事例については、今後の分析を予定している。 (2)国際学会1件、国内学会1件の口頭発表、学術論文1本を発表した。国際学会個人発表1件が査読を通過したが、新型コロナ感染症のため延期となった。学会誌掲載予定エッセイ1本、国内学会講演1件の予定がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の進捗状況は、以下の点で当初の計画以上である。 (1)宮城教育大学附属小学校に、探究の対話p4cの授業を初めて導入できたこと。(2)同小学校の特別活動の時間に、探究の対話p4cに、討議デモクラシーの理念と手法を組み合わせ、新たなタイプの探究学習「討議教育」を開発実践できたこと。(3)同小学校にて特別活動と道徳の時間に、探究の対話の共同研究実践を継続し、2020年2月には公開研究会で成果発表できたこと。(4)宮城県白石市立O小学校での探究の対話p4cを継続して共同研究でき、追跡調査ができたこと。(5)福島県天栄村立湯本小学校とも連携でき、共同研究実践ができたこと。(6)これらの研究成果を年度内に学会発表や論文や報告書として発表できたこと。(7)こうした実践研究活動が認められ、日本教育学会では、子どもの哲学の日米の動向をテーマとしたエッセイの寄稿を依頼され、実存思想協会では、子どもの哲学対話のテーマにて講演を依頼されたこと。 上記に加え、3年計画の研究全体としても、以下の点で当初の計画以上の進捗であった。 (8)2017-18年度に宮城県白石市立O小学校が、話し合い活動を取り入れた道徳の授業研究で、国立教育政策研究所の指定校に選ばれ、探究の対話p4cの理念と手法を、日本の教育現場に適応させ成果をあげたこと。(9)2017年10月から2018年3月にかけて、ハワイ大学に研究留学し、同大学の研究者と共に、探究の対話p4cの本場であるハワイの小中高校を定期的に訪問し、児童生徒の対話に参加できたこと。これにより、p4cの国際的なネットワークが広がるとともに、日本の子どもとは異なるタイプ・質の対話を多く経験でき、日本の学校での参考例を収集できた。
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今後の研究の推進方策 |
1)今年度は、3年計画最後の年度として、共同実践研究を重ねてきた現場教師たちとともに、探究の対話p4cの本場であるハワイの学校を訪問し、ハワイ大学と連携して、対話の共同開催と研究成果の交流を計画していた。しかし、新型コロナ感染症のため、渡航延期を余儀なくされた。現在もなお渡航の目処は立たないが、日本での実践成果を共有し、日本にはまだない対話を実際に実践者に体験してもらうために、この企画をなんとか実現したいと考えている。 2)新型コロナ感染症のため、教室で円座になり対面で行う対話は当面実現困難である。新型コロナとの共生社会が予測される中、学校現場でどのようにして対話や話し合い活動を実現するか、創意工夫が必要である。 3)一方、筆者の所属大学では、筆者を含めp4c理解者が、大学生対象の授業において、テレビ会議システムを活用し、探究の対話p4cをリモートで実施している。この経験から、探究の対話p4cのルールは、テレビ会議システムでの話し合いを、安心安全かつスムースかつ生産的に進めるためにも有効であると感じているところである。今後、なお一層の工夫と経験の蓄積が必要である。 4)米国ハワイの児童生徒の対話の特徴として、他の意見に賛成しないこと(disagreement)があげられる。賛成しないことによって、コミュニティの意見が多様になり、多面的に吟味できることを、米国の児童生徒は幼い頃からの対話経験により、実感しているケースが多い。同調圧力が米国以上に強く、それがいじめ等の人間関係のもつれに発展しがちな日本では、周囲に賛成しないことの積極的な意義を児童生徒が学ぶことは重要である。児童生徒が、他者を尊重しつつ、穏やかに異論を述べることができる対話を、日本の学校現場でも実現することが、今後の課題である。 5)探究の対話p4cの効果測定も課題である。今後、有効な心理測定尺度を開発実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の国際的発信として、2020年2月9日-16日の予定で、共同研究者の現場教師2名と共に、探究の対話p4cの本場ハワイの小中高校とハワイ大学を訪問予定であったが、新型コロナウイルス感染症のため、渡航を延期した。計画通り渡航実施を望んでいるが、2020年6月現在でも渡航はおろか、学級で話し合い活動をすることさえ、国内外で見通しが立たない状況である。10月の国内学会は開催予定のため、国内旅費に切り替えて使用する計画である。
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