最終年度は研究成果をまとめることにあてた。 本研究は,1980~90年代にメディア・リテラシー教育が発達したカナダにおいて,商業広告が,消費者教育としてはどのように教えられてきたかを明らかにすることを目的に掲げている。具体的には,ブリティッシュ・コロンビア,アルバータ,サスカチュワン,マニトバ,オンタリオ,ケベックの6州の消費者教育の教授用資料集を収集し,分析を進めてきた。この作業により,1970~80年代に,各州の教育省ないし消費者行政機関が手がける教授用資料集が集中的に刊行されたことが判明したため,当時,広告をどのような観点から教えることが教員に求められていたのかについて州間比較を行った。 その結果,全6州の教授用資料集に共通していた観点は,(1)広告の構成要素(商品情報の要素と感情に訴える説得の要素)の識別と,(2)広告規制,の2つであった。このほか部分的に共通していたのは,(3)消費者にとっての広告のメリットとデメリットをめぐる討論(5州),(4)広告の商品情報と実物の比較(4州),(5)広告における説得の要素に見られる表現技法の類型化(4州)であった。以上の5点の共通する内容のうち,(1)(4)(5)の3点は,広告に含まれる商品の説明や説得の表現を分析する指導を行うよう教員に促すものである。これは広告の情報源としての信頼性を問うことを目的としている活動であり,そこには広告が遍在する消費社会に対する批判的な姿勢を児童生徒に形成するという意義を見出すことができる。 以上の成果は,2020年6月開催の日本カリキュラム学会大会で発表した。その後,この発表内容をベースにしつつ,カナダに影響を与えた20世紀初頭以来のアメリカの消費者教育,消費者行政,消費者運動の展開も分析対象に含む投稿論文の準備を進めた。
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