本研究の目的は、1950~60年代の戦後日本の漁業地域において、家庭や地域を巻き込んだ学校内外にわたる生活指導がどのように展開されたのかを明らかにすることにある。 補助事業期間の再延長により、最終年度の2022年度は、繰越金の額が小規模であった。そのため、主だった活動としては、横浜市への出張を1回実施し、横浜中央図書館において資料調査を行った。具体的には、もともと漁師町で住宅地化が進行した鎌倉市内の公立小学校における、子どもの主体性を重んじた「創造学習」の実践研究に関する1960年代の研究報告書を閲覧・複写した。本報告書により、当校では1950年代後半からことばの研究が行われてきたが、それに行き詰まりを感じ始めていた頃、「知能と学力の不一致の要因とその解決に関する研究」の研究協力校を委託されたことがわかった。ことばなおしの実践についても、ことばだけの問題ではなく、子どもの人格の問題として総合的に捉える方向に進んでいったことがうかがえた。このことは、子どものことばの問題が、子どもの生活指導全般のなかで捉え直されたことを意味する。ただし、この捉え直しがその後の「創造学習」とどのようにつながったのかは読み取れなかった。従前のことばなおしの取り組みは、その課題が充分に省察されることなく、学力向上の課題にすり替わるように衰微していったことが資料から示唆された。 研究期間全体を通じて、千葉県館山市、銚子市、神奈川県鎌倉市の漁業地域における小学校の生活指導に関連した諸実践や、とりわけ地域の生活・文化にかかわる学校のことばの教育(標準語教育、ことばなおし)の歴史を掘り起こすことができた。
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