本研究は,保育実践について語り合う園内研究会において,保育場面から何をどう見て取り出してどう語るかという保育者が実践を省察する力量の問題に焦点を当て,「保育を見る目・語る力」として概念化し,こうした力量を形成する背景の園内コミュニティや社会・文化・制度的文脈を明らかにしようとするものである。 本年度は,研究最終年度として,継続して対象園の園内研究会に参加しながら,引き続きデータ収集を行い,長期的な展開の中で,保育を見る目・語る力がどのように変容していくのかを検討し,学会大会等で議論をさまざまに行いながら,研究のまとめに取り組んできた。 各園の事例分析を行った結果,研究の成果として次の3点が明らかになってきた。第1に,保育を見合い語り合う場を重ねていくことが着実に保育を見る目・語る力につながり,小学校教員にも共有可能であるということである。こうしたプロセスは,架け橋期のカリキュラム開発にも有機的に結び付いていた。第2に園内研究が長期にわたる中では,組織的な危機が起きうることである。メンバーの入れ替わりやミドルリーダーのコミュニティの熟成の中で,管理職との軋轢という危機の起きるケースが見られた。それを克服するには,たとえば実践発表といった機会を,互いの考えを丁寧に共有する場として位置づけるなど,コミュニティの発展につながるリズムの中で理解しあう場を生み出すことであった。第3に,保育を見る目・語る力の力量形成を支える組織構造として,多層的に構造化された省察的機構の重要性である。園内のコミュニティ・市町内で園をつなぐコミュニティ・各市町のコーディネータをつなぐコミュニティ・それらを支える県と大学のマネージメントコミュニティといった多層にわたって力量形成を支える構造が明らかになった。
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