最終年度の研究成果は以下の二つにまとめることができる。 一つは、障害や疾病を抱える若者たちの生活意識に迫る聞き取りを実施することをとおして、当事者たちがどのような育ちのなかで自己をかたちづくっているのかを明らかにしたことである。他者とは必要以上のかかわりを持とうとしない若者がいる一方で、他者を求めてやまない若者も存在する。こうした多様な若者たちが、自らの過去を振り返る語りをとおして、彼らが何を考えているのか、何を求めているのかを考察した。その成果は著書『生き方にゆれる若者たち-障がいや病いを抱える当事者の自己の育ち』で公表した。 もう一つは、大学で学び生活する障害や疾病を抱える学生を対象とし、彼らへの聞き取りをとおして、大学で学び生活することにおいて生じる具体的な困難さを「自己の育ち」との関連で明らかにしたこと、及びそれへの対応の方向を指し示すことができたことである。大学では、高校までとは違い、学びを進めることにおいても、対人関係を形成することにおいても、主体性や自主性がいっそう求められることが多い。そのため、障害のある学生においては自らが抱える障害にあらためて向き合う機会になることが、例えば、聴覚障害(難聴)のある学生の聞き取りをとおして明らかになった(雑誌『聴覚障害』で公表)。さらに、近年増えている障害学生に対する具体的支援のありようを、合理的配慮を軸にしたセーフティネットの構築の必要性から提案することができた(著書『大学生のためのセーフティネット:学生支援を考える』で公表した)。 以上のように、今年度は、上記2つの成果を残すことができた。いずれも、発達理論と実践(支援)との連関性を重視し、個別事例から得た語りの収集を通して普遍性を探る試みになったと言える。 、
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