本研究は、教師の専門性及び実践力(教師力ないし教育的タクト)について、緊急性と不確実性を抱えた学校日常の実践分析と問題状況への教師の対処法の抽出を目的として、日独の学校教師への質的調査を実施するものである。学校日常における状況マネジメントに注目し、その際に教師が行っている配慮や判断、決断など対処メカニズムを可視化し、教師力熟達支援プログラムを開発することを目的としている。 最終年度には、これまでの調査データの集約と分析、比較検討を行った。また、教師力熟達支援プログラム(案)を作成し、現場教師からのコメントや意見を聴取した。さらに、自らの実践に関する振り返りを通して、自己のパフォーマンス分析の方法として、ビデオ収録された教育実践を調査者と実践者とが共に分析する手法を、京都市内の小学校において実施した。この分析を通して、教師は自らの実践において、授業のどの時点で、何に着目し、また次の生徒への働きかけや言葉がけを行うために、どのような配慮や判断を行っていたかについて聴取した。 その結果、熟練教師ほど、1)生徒間の授業の理解度といった認知的側面だけでなく、情緒的状況把握を含めた洞察がなされていること、2)授業全体の予めの設計に加え、刻々と変化する授業場面における教師の臨機応変な対応のメカニズムについて、状況予測能力に着目した分析を行うことができた。 ここ数年、ドイツ語圏においてタクト・ルネサンスと呼ばれるほどタクト研究が興隆している。研究代表者の研究成果が複数の独語・英語の書籍や論文で紹介されたこともあり、最終年度には元々連携していた独ベルリン自由大学やケルン大学のほか米国、スイスの大学からオンラインによる研究討議の依頼があり、研究成果の一部をそこで発表し、議論を深めることができた。本研究の成果は2022年ドイツ教育学会大会で分科会を組むほか、英語での共著書の刊行が決定している。
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