申請者は現代の教育学における原理的志向の特色を「発達の未熟状況の補償に向けた関わり」と捉えているが、5年間の研究を通して、現代の教育学が進めてきた、そのような「発達の未熟状況の補償に向けた関わり」だけでは限界があり、修正も避けられないという意識は強まった。教育を一般的に実施する大きな目的として、これまで重要視されてきた漸進的な発達観を基盤にすることももちろん重要であるが、非漸進的つまり急進的発達観念についても、学問的な構造のうちに取り入れる必要がある。さらに2020年以降に世界を襲った新型コロナウィルスの精神的影響、つまり予想外の非日常的変化が確実に起こるという危機意識も考慮して考えると、漸成であれ頓成であれ、従来の発達観に揺らぎが生じつつあることは確かであり、こうした意識の再認識こそが、ニヒリズムの重要性を示す先行的兆候として捉えられる。こうした気づきを言語化していく作業を続けた。 上記の課題に対する考察の一端を「ニヒリズムと論理」と題して『教育哲学研究』第122号にて昨年度紹介したが、その歴史的実証性を確認するために、今年度は森有礼の思想へのスペンサーの影響を『倫理書』に即して考察した。このことをとおして、西欧の道徳教育観と日本人の精神形成との関係性を検証する作業を行った。この論文は、査読を経て、研究学会誌に掲載された。 残念ながら、新型コロナウィルス拡大の影響により、最終年度も国内外での調査がすべて中止になり、活動が著しく制限されてしまったが、可能な範囲内で研究をまとめることができた。
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