研究課題/領域番号 |
17K04549
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
川地 亜弥子 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (20411473)
|
研究分担者 |
勅使河原 君江 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 講師 (60298247)
赤木 和重 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (70402675)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | イギリス / 教育評価 / 意味深さの評価 / 特別支援教育 / 鑑賞教育 / 作文教育 / オラシー / インプロビゼーション |
研究実績の概要 |
本年度は、英国における教育評価について調査を遂行し、特に意味深さの評価の実際について研究を進めた。研究期間中にのべ18校(ナーサリースクール、プライマリースクール、セカンダリースクール、シックスフォーム、スペシャルスクール)の訪問・調査を行い、関連実践としてドイツ1校、スペイン1校でも調査を遂行した。学校外の施設として、ミュージアム、チャイルドマインダー2箇所、子ども・家族支援施設2箇所においても見学・聴取調査を行った。 チャイルドマインダーは有資格者ではあるものの個人での保育の提供者である。聴取調査では、Ofstedの監査は大変だが保育の質を一定保つには重要であるという認識であり、子どもの認知・行動・社会性の面での育ちの評価については一定の質を維持する役割が看取できた。一方、意味深さについての評価は、かなりの程度個人の力量に左右されることが伺えた。 その他の学校・施設においては、教師やその他の専門家が集団で子どもの育ちについて把握・議論することが可能な体制を有していた。特に学校では、校長や副校長の役割が重要であった。学校内外の教員同士の学びを組織する中で、教員の成長と子どもの成長を同時に達成している学校が多くあった。移民が多く居住する地区の学校では、「私の声には力がある」ということを実感できる学びを重視しており、日本の生活綴方との共通点が多数看取された。 スペシャルスクール(特別支援学校)では、特定の機能訓練などを個別に行うことよりも、子どもが一連の活動の流れの中で、他の子どもや大人と共に楽しむ・味わうことを重視しており、笑顔、発声、全身の状態等を注意深く見て、サポートスタッフや保護者と共有していた。教師は入念に準備と同時に、即興的なやり取りも重視していた。 ミュージアムでは、日本のミュージアムにおける取り組みも紹介して交流を行い、今後継続して調査を行う契機を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者が英国で在外研究を行い、その受け入れ大学において適切な研究者や学校を紹介してもらえたことによって、計画以上に実地調査を進めることができた。 この研究で最も困難が予想されたのはイングランドの教育実践を対象とした調査分析であった。当初、限界なき学びの実践校を予定していたが、校長の交代などに伴い調査受け入れが困難であることが分かったため、別の学校を探した。現在、ロンドン、ケンブリッジ、イプスウィッチで複数の学校を紹介してもらい、予想以上の成果を得た。多くの学校で、英語使用の困難、発達障害等に関する子どもへの指導・支援だけではなく、貧困その他の点で支援が必要な家庭にも丁寧にアプローチしており、学校外での学びの支援についても行っていた。子どもたちの集団編成についても学年別・能力別ではない編成に挑戦している学校もあり、本研究の射程を広げることができた。 歴史研究的アプローチとしては、英国における進歩主義教育に関する知見を収集することができた。とりわけ、プラウデンリポートに関する研究集会(Children and their Primary Schools: The Plowden Report 50 Years On, November 2017, London)では、教育評価に関する様々な知見を得ることができたことに加え、英国だけではなく米国関係者と交流を深めることができた。現代の評価についてはウエブサイトなどでもある程度の情報収集が可能であるが、過去の知見についてはこうして実際に関係者と出会い、史資料・情報を集めることが極めて有効であった。 ドイツ、スペインの研究者、教師とも、子どもの表現に根ざした意味深さの評価について理論的・実践的交流を深めることができた。本研究は日英の意味深さの評価について焦点をあてているが、グローバルな教育課題にアプローチしていることを確信できた。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度には、前年度に遂行した英国調査について継続・発展させることと並行して、戦前・戦中・戦後の日本における「意味深さの評価」の系譜に位置づく教育評価の理論と実践に注目し分析を行う。「意味深さの評価」が現出しやすく、共同研究チームのこれまでの知見を生かすことができる点で、作文・書くことの教育、美術教育、障害児・特別支援教育に焦点をあてて分析を行う。ここでは、細分化された目標よりも、子どもが自ら要求をもち生活のなかで実際にはたらかせていく力(資質・能力)といった大きな目標の獲得がなぜ重視され(もしくは軽視され)、それをどのように評価してきたかを明らかにする。 申請時には、個人的な意味深さと学問・教科内容的深さの関係、評価の観点の共有化(教師集団から子ども集団へ)、そうした変化をもたらす触媒となるメディアの特徴、ベテラン教師と新人教師の評価の共有化の理論と実践等を明らかにする予定であったが、これに加えて、こうした教育評価を支える教師集団やその他の専門家集団についても調査を進める。 昨年度までの調査で、英国では学校内に意図して研究する教師集団を組織したり、校長が若手・中堅教員の育成に尽力し、本人の意図に沿った研修の機会を保障したりということが聴取でき、またそうした組織・サポートそれを支える地方教育制度の存在が確認できた。日本の教師・学校へもこうした観点から調査を行う。 研究グループは、こうした教師・学校・ミュージアム等との良好な関係を継続して有しており、計画通りに研究を遂行できる見込みである。
|