研究実績の概要 |
教師の資質能力形成と質保証を目的にした教師の継続的な学びとその制度に介入するアカウンタビリティ政策を導入した各国地域で観察される(1)教師の専門職アイデンティティの希薄化,(2)教職の魅力低下,(3)教員離職率の増加の課題に注目し,教師の職業アイデンティティとその形成に係る先行研究を実施した。この結果,教師の専門性・資質能力の構成要素を外的に定義して測定する共通指標を前提にする政策と実践のアプローチの有効性は限定的であり,教師の質保証アプローチとして理論的・実践的に限界があること,そしてその限界が教師の専門職アイデンティティにネガティブに機能することを実証的に示した。この成果は,経済協力開発機構のレポート(OECD, 2019)に反映させたほか,令和3年度には日本教師教育学会の研究大会や中央教育審議会等で広く報告し,文部科学教育通信に論考を表した。
その上で,教師の資質能力を細分化してその習得にアカウンタビリティを求めるアプローチに区切りをつけ,教職員の多様性を再評価し,学校を単位とする教職員組織の有機化に向けた研修システムを構築するウェールズに着目し,システムの概要とその生成過程を調査した。ウェールズが2018年から導入するカリキュラム改革と並行して行う教員養成改革と教員研修改革(学校研修システムと学修履歴ポートフォリオ)が,教員にブランケット型の資質能力を要請する従来のスタンダードやコンピテンシー型の質保証から積極的に離れたことに注目し,学校を単位にする有機的な教員組織の構築を介した教師の自律的な学びと質保証アプローチと,その生成過程・課題・ツールを調査した。調査結果は各所で報告しているほか,学校を単位にする学校研修の構造を国際学会誌等で公表している(Lin, Kimura, Yurita, 2022)。
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