研究課題/領域番号 |
17K04556
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
三時 眞貴子 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (90335711)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 虐待 / 浮浪児 / 売春婦の子ども / ライフヒストリー / インダストリアル・スクール |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀イギリスにおいて国家政策として法的に規定され、地方行政・民間が主体となって行った浮浪児の就学支援が、浮浪児自身の人生に果たした役割とそこで生じた課題を、学校の記録簿や学務委員会の記録等の一次史料を用いて浮浪児のライフヒストリーを描き出し、家庭環境や教育内容と進路の関係、性差・宗派の違いを分析することで明らかにする。浮浪児の多くが貧困あるいは親からのネグレクトを理由に就学支援を受けた子どもたちであり、日本のみならずグローバルに子どもの貧困・虐待が問題視される今日にあって、「生きること」において就学が果たした役割と課題を具体的に明らかにすることを通して、貧困や虐待にあえぐ子どもたちに教育が為し得る可能性を模索することが本研究の目的である。 この目的に従い、本研究では、軽犯罪を犯した子どもや極貧状態で親からネグレクトされていた子どもが収容されたマンチェスタ認定インダストリアル・スクールに残された内部資料(入学・退校記録簿、学業成績上位者への褒賞記録、懲罰記録、寮母や教師による各種委員会の議事録等)と学務委員会の議事録等を用いて、浮浪児のライフヒストリーを描き出し、就学経験が果たした役割と課題について検討することとした。 本年度は本校、バーンズ校(男子校)、セイル校(女子校)の現在参照可能な生徒記録(男女合わせて約4,000名程度)のデータベース化とチェック行い、とりわけセイル校(女子校)の記録から、家庭の養育責任について学校側がどのように捉えていたのかの全体像を示すとともに、二人の姉妹のライフヒストリーを描き出した。 その成果として、養育責任と売春婦の問題をイギリス女性史研究会で報告し、姉妹のライフヒストリーを雑誌『九州歴史科学』に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では本年度、すでに収集しているセイル校の内部資料とマンチェスタ学務委員会議事録をもとに、個別のライフヒストリーを描き出すこととしていた。具体的には①セイル校の退校記録簿(1877年から1900年まで約400名)と学務委員会の議事録から、セイル校の出身者の退校後の状況について詳述している生徒を約30名選び出し、就職先、給料の額、結婚等など一人ずつ退校後の経歴一覧を作成すること、②上記の30名について入学記録簿をもとに入学理由、家庭環境、入学時と退校時の識字レベル、学校内での職業教育の内容、賞・罰の状況、進路(すでにデータベース作成済み)について抽出し、ライフヒストリーを描くこと、としていた。 この点については、計画通り、実行でき、計画通り、国内学会での報告、国内雑誌への投稿も行った。しかしながらもう一つ記載していた計画である「カトリック系のインダストリアル・スクールの女子校の資料を収集する」点については遂行できなかった。というのも、この資料はロンドンにある民間団体が保管していることはわかっているが、そこに連絡しても資料閲覧の許可が下りなかった。今後も継続的に依頼をし、この科研の研究期間内に閲覧できるように尽力する。
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今後の研究の推進方策 |
「これまでの進捗状況」にも記載したが、ロンドンのDaughters of Charity(チャリティ団体)が所有しているカトリック系のインダストリアル・スクールの女子校の資料を閲覧できるように、働きかけを継続的にしていくと同時に、計画調書に記載した通り、次年度はカトリック系のインダストリアル・スクールの男子校の資料を収集し、プロテスタント系の男子校アードウィック・グリーン校の出身者のライフヒストリーを作成する。 また、計画通り、国内セミナーを企画・開催し、学会での報告と投稿を行う。
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