研究実績の概要 |
本研究は、19世紀イギリスにおいて国家政策として法的に規定され、地方行政・民間が主体となって行った浮浪児の就学支援が、浮浪児自身の人生に果たした役割とそこで生じた課題を、学校の記録簿や学務委員会の記録等の一次史料を用いて浮浪児のライフヒストリーを描き出し、家庭環境や教育内容と進路の関係、性差・宗派の違いを分析することを目的として研究を行なった。 実際に、入学記録簿と退校記録簿、学校の寮の委員会議事録、罰記録、マンチェスタの学務委員会の議事録を用いて、ライフヒストリーを描いた。入学登録簿には入学時の家庭環境や入学理由が、各種委員会の議事録には在学中の様子が氏名付きで詳述されている。賞・罰記録、入学・退校記録簿の識字レベル欄によって、生徒の学校への馴染み度合い、学業や職業教育でどの程度のレベルにあったのかが判る。これらをもとに、入学前の状況・家庭環境と学業成績の関係、家庭環境、在学中の職業教育の内容や学業成績、学校への馴染み度合いと就職先または退校後の生活状況との関係を分析し、浮浪児の人生において就学経験がどのような役割を果たしたのか、そこにどのような課題が生じていたのかを明らかにした。 その成果は2019年にイギリスの教育史学会History of Education Societyで報告し、2020年5月に学会史History of Educationに「From being the most vulnerable children to becoming conventional members of society: four cases from Manchester certified industrial schools, c. 1880-1920」というタイトルで投稿し、2021年2月23日にオンライン上で出版された(紙面上では次号に掲載予定)。
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