研究課題/領域番号 |
17K04569
|
研究機関 | 福山市立大学 |
研究代表者 |
古山 典子 福山市立大学, 教育学部, 教授 (10454852)
|
研究分担者 |
瀧川 淳 国立音楽大学, 音楽学部, 准教授 (70531036)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 鑑賞 / 教師教育 / 音楽経験プログラム |
研究実績の概要 |
依然としてCOVID-19の感染が収束しない中,空間を共有しながら音楽を聴き,それについて語ることを目的とした本研究の中心的な課題である音楽経験プログラムの実証は,2021年度も大きな制限を受けている。 2020年度は,本来の形で実証研究が行えない中で,新たな音楽鑑賞のスタイルでの試みであった熊本県県立劇場,熊本市教育委員会らによる「ケンゲキオンラインスクール」の視察と関係者へのインタビュー調査を行った。 2021年度は,まずこのケンゲキオンラインスクールで収集したアンケート回答によるデータ,ならびに視察時のインタビュー調査データを基に,その試みの意味と可能性について考察を行った。ここでは,ケンゲキオンラインスクールに参加した小学校教師たちによるアンケート調査での自由記述回答に焦点を当て,テキストマイニング分析を行った。その結果,映像・音声のライブ配信という手法が,演奏家と鑑賞者に双方向的なつながりを感じさせるものであることが明らかとなった。ここではリアルタイムでのやり取りは困難であったものの,参加した学校名が会場で読み上げられるという行為によって参加者側が「つながっている」と感じていたこと,そして演奏者側は,各学校の様子がモニターに映し出されることを通してその感覚が引き出されていた。また,配信であるからこそ「音楽を聴きながら動く」スタイルでの鑑賞が可能となり,音楽と自分との身体を通した双方向的な関わりがもたらされている可能性について言及した(瀧川淳,古山典子「オンラインライブコンサートの教育効果と可能性について」日本音楽教育学会編『音楽教育実践ジャーナル』19,2021) これらを通して,単身ではなく他者と共に同じ空間で音楽を聴き,語り合うという特徴をもつ本研究の音楽経験プログラムが,教育的な視点において音楽鑑賞の形態として意味をもつものであることの明証に繋がる示唆を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
対面による音楽経験プログラムが実施できていない点は,本研究の遅延の大きな要因となっている。そのため,オンラインでの実施を検討しているものの,空間を共にすることによって「語り合う」ことに意義があることを踏まえ,感染状況を勘案しつつ音楽経験プログラムを実施する方向で計画を進めている。 その中で,一時収束傾向にあった2021年10月に,小学校教師を対象とした音楽経験プログラムを対面で実施した。この回では音楽家ゲストとしてヴァイオリニストの中根由貴氏とともに,文化的背景の異なるヴァイオリン音楽を取り上げ,音楽鑑賞プログラムを行った。現在,この回の参加者アンケートの回答内容の分析・考察に取り組んでいる。 この研究期間の中途段階でCOVID-19の感染拡大に見舞われたことから,研究の大幅な遅滞が生じた。このことを受け,2022年度は音楽経験プログラムの有効性をより広く検証できるよう,福山市とともに東京都においても実施を計画している。新たに東京都で実施・検証を行うことにしたのは,23区内の音楽科授業については音楽の専門性を有する音楽専科教師が担当しているが,その教師たちへの有効性の検証が可能になり得ると考えるためである。
|
今後の研究の推進方策 |
COVID-19の感染拡大は未だ収束してはいないものの,行動制限がなくなりつつあることから,今後のプログラムの実証については,共同研究者である瀧川淳准教授(国立音楽大学音楽学部)とともに広島県と東京都で行う予定である。また,当初の研究計画で予定していた音楽授業のフィールドワークについては,現在小学校においても感染者が発生していることから困難であるため,その代替策として,福山市の公共ホールである「ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ」の協力の下,本ホールで取組んでいる事業「音楽宅配便」(市内の教育機関にホールの登録アーティストが出向いて行う音楽鑑賞教育の取組み)にて蓄積されたアンケート調査の回答内容の詳細な分析を計画している。この分析を通して,現在の音楽科教育において行われている鑑賞教育の様相,他者とともに音楽を聴くことの意味,小学校教師が音楽鑑賞指導をどのように捉えているのかを明らかにできるものと考えている。 以上,教師を対象とした音楽経験プログラムの実証,ならびに学習者による音楽鑑賞活動の実態に関する分析・考察を踏まえて,2022年度に本研究課題を完了する見通しである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も,COVID-19の影響により,当初の研究計画で予定していた音楽経験プログラムが実施できなかったため,旅費や人件費・謝金の支出が計画通りに進んでいない。 2022年度については,感染状況を勘案しながら,極力対面による音楽経験プログラムを実施する方向である。それが不可能な状態に陥った場合は,オンラインでの音楽経験プログラムの実施を計画する予定である。オンラインでの実施には,鑑賞者(プログラム参加者)全員にピンマイクを装着させることで,一人ひとりの発言を分けてデータ化することが可能であるため,その購入費用が見込まれる。 対面もしくはオンラインのいずれの形態であっても,音楽家への謝金,使用機器やソフトの購入が必要となる。
|