研究期間中に実施した音楽経験プログラムについて,鑑賞時の教師たちの会話の分析・考察を行った結果,同じ曲に対する異なる捉え方に触れることによって新たな聴き方を認識していることが明らかになった。それと同時に,参加者同士の会話から,作曲者が作品に込めた内容の伝達性が認められるとともに,音楽の感じ方の「正解のなさ」への認識が,音楽を聴く行為の可能性を開くことが示唆された。この音楽経験プログラムの策定と実施ならびにその成果については,芸術作品としての音楽の鑑賞とその解釈及び解釈の言語化に関する美学や芸術学の知見を踏まえながら考察し,日本音楽教育学会,日本教育実践学会で発表を行うとともに論文として公表した。 しかし,2019年末からのCovid-19の感染拡大によって,小学校教師と音楽家が空間を共有しながら共に音楽を聴き,それについて語ることを目的とした本課題の音楽経験プログラムの実証は,大きな制限を受けることになった。 本来の形で実証研究が行えない中で,2020年度には新たな音楽鑑賞のスタイルでの試みであった熊本県県立劇場,熊本市教育委員会らによる「ケンゲキオンラインスクール」の視察と関係者へのインタビュー調査・分析を行い,論文にまとめた。 また,2021年度は,ふくやま芸術文化ホールリーデンローズ館長の作田忠司氏,ならびに流通や経営論研究を専門とする池澤威郎氏とともに,福山市における音楽文化振興に関するオンラインシンポジウムを開催した。このシンポジウムでは,公共施設としてのホールの現状や今後果たすべき役割等について,現実と仮想現実において「音楽を聴くこと」を考えるとともに,文化の継承・発展を経済的な視点から捉え,新たな可能性の提示を視野に入れた議論を展開するなどした。 またこれに併せて,公共ホールが主催する小学校への出張鑑賞教室での児童が感じたことについて,自由記述の分析を行っている。
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