本研究は二つの研究目的を設定した。教員養成課程の便覧作成と一般教養概念の解明とである。以下、研究成果を(1)、(2)に示す。(1)教員養成課程の便覧作成は、視学官の人事の実態、教育担当部署の組織図、視学官の評価作業のマニュアルなどの一次資料の収集が完全ではないため、それを待って近いうちに完成させ公表する。(2)一般教養概念については、第三共和制期にその契機が複数確認された。それでもなおその中で確認できたいくつかの契機を示していく。①リベラルアーツの伝統的な教養概念である。人文科学系学問・教育を保守して、デカルト以来の理性を重要視する所謂知性至上主義とでもいうべき教養概念である。アラン(1868-1951)がその典型である。②人権概念・人権運動と結びついた教養概念である。政教分離の推進者F.ビュイッソンは人権同盟の指導者でもあり、女性・移民の人権問題にも取り組みノーベル平和賞を受賞している。同時にF.ビュイッソンはプロテスタントでもあり、信仰とライシテとが自己矛盾せず、どのような人格形成を考えていたのかが最大の焦点となる。③心理学者ワロン、科学者ランジュヴァンに共通してみられる教養概念であり、エビデンスに基づく児童研究がベースにある。同時に労働概念・職業概念と結びついた教養概念でもある。この時代のフランスの心理学者・精神科学の研究家、教育学者たちは一様にロシア革命への憧憬の念があった。④新教育運動と結びついた教養概念が指摘できる。個性尊重主義に基づき、各人各様の教養形成が説かれる。また上記③にも共通するが、庶民とエリートを分断するのではなく、平等化につながる教養概念である点にも特徴がある。②と③とは、④新教育運動に収斂していった面がかなり見受けられる。そしてこのような経緯を辿った教養概念は、現代フランスでは市民性育成教育へと収斂されているといえる。
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