戦後の大学改革モデルの受容・定着過程の研究－家政学分野における地域貢献を焦点に－

2020 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 17K04576
• 研究機関: 桜美林大学
• 研究代表者: 石渡 尊子 桜美林大学, 健康福祉学群, 教授 (40439055)
• 研究期間 (年度): 2017-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: 戦後教育改革 / 家政学 / 普及事業 / 地域貢献 / 生活改良 / ランド・グラント大学

研究実績の概要

本研究課題では、新制大学における家政学系大学・学部等の創設期に、家政学系学部の設置あるいはその教育活動を遂行した大学の当時の資料の収集整理を通じて、当時の学としての「家政学」の学界また各教育機関の「理解」に着目してきた。結果、家政学2類型(1 ランド・グラント大学の主たる使命である地域貢献(生活改良を含む普及事業)を家政学の使命として明確に位置づけ、それを実践した大学と、2普及概念を前面に押し出さず、学問としての家政学の確立と女子の高等教育機会拡大の場としての家政学部の設置に力点を置いていった大学)に分化していくことが明らかになった。またその過程で、戦前、戦間、戦後改革期の家政学構想のつながりが新制大学創設にどのように反映されたか、家政学の変容に影響を与えた人物や団体を整理し、「日本における家政学の再編過程」を図式化した（『戦後大学改革と家政学』（2020）東京大学出版会）。
事例研究の中で、地域貢献(生活改良を含む普及事業)を大学の使命として明確に位置づけ、それを実践した大学」の中で、東北大学と高知女子大学（現　高知県立大学）は「生活科学」という概念をもちながら学としての存在意義とその教育内容を模索したことを明らかにしてきた。さらに過程の詳細やそもそも生活科学という概念が戦前期の何から引き継がれ、また戦後改革期においてアメリカの影響により変容したのかについて検討が必要であることが導き出された。沿革史誌やこれまで収集した資料からだけでは十二分に明らかにすることができなかったため、東北大学においては、100年史編纂にあたっての資料群を東北大学史料館、高知女子大学（高知県立大学）は、70周年記念誌編纂に伴う資料群を所蔵先の高知県立大学での調査を行う予定としていたが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う諸制約が時期を設定することができず、調査自体は持ち越すこととなった。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

事例研究を進めるために、関連する大学・学部の一次史料の追加調査が必要であったが、本年度（2020）は新型コロナウイルスcovid-19感染拡大の影響により調査機会のタイミングを逸し、断念せざるを得ない状況であった。

今後の研究の推進方策

昨年度末においては、関連大学・学部の一次史料の追加調査をできるだけ早期に実施する予定であった。その際、学問としての家政学の移入元となる諸外国、とりわけ英国(Domestic Science)・米国(Home Economics)での、戦後改革期当時の家政学の実態把握を進めるたいと考え、学術移転を実証的に明らかにするために、GHQ関係者が紹介したオレゴン州立大学のホーム・エコノミクス構想、また新制大学創設にあたって排除されていったDomestic Scienceの移入の担い手であった東京家政学院関連、創設者大江スミが触れた当時の英国関連史料の一次調査を行う予定であった。しかし新型コロナウイルス感染症の影響から海外調査は断念し、これまでの研究成果や課題の見直しを行った。結果、20年度は東北大学と高知県立大学への国内調査を実施することとしたが、結局、実施時期を捻出できないこととなった。しかし両大学への調査であれば21年度に可能であることから、20年度に予定していた調査を実施し、本研究課題成果を総括したい。

次年度使用額が生じた理由

予定していた資料調査を実施できなかったことが次年度使用額発生の第一の理由である。そのため、国内の関連大学・学部の一次史料の追加調査を行う予定である。