研究課題/領域番号 |
17K04580
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
櫻井 歓 日本大学, 芸術学部, 教授 (60409000)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 勝田守一 / 堀尾輝久 / 宮澤康人 / 藤田昌士 / インタビュー / 梅根悟 / 総合学習 / 総合的な学習の時間 |
研究実績の概要 |
本研究課題の3年目にあたる2019年度は、前年度までに実施した聴き取り調査(インタビュー)の記録を冊子にまとめて発行し、インタビュー内容に関する学会発表を2件行ったほか、〈教育〉〈哲学〉〈政治〉の連関を追究する一局面として、「総合的な学習の時間」の哲学的背景を梅根悟(1903-80)の思想との関連から考察する論文を執筆・発表した。本年度の研究実績は概ね以下の通り分節化することができる。 (1) 2017・18年度に実施した3名の教育学研究者(堀尾輝久氏、宮澤康人氏、藤田昌士氏)への聴き取り調査の記録を整理し、冊子にまとめて発行した(2019年8月)。戦後日本の教育学をリードしてきた三氏は、いずれも勝田守一(1908-69)の門下あるいは影響下において学問上の自己形成を遂げたという共通性をもつ。各氏の自己形成・思想形成とともに勝田との関係を含めて聴き取り調査を行った記録は、戦後日本の教育学に関わる貴重な証言となるものと考えられる。また、インタビュー内容に基づいて日本教育学会ラウンドテーブルを企画し発表を行ったほか、教育思想史学会においても関連する発表を行った。 (2) 論文「総合的な学習の時間」の哲学的背景――梅根悟のカリキュラム思想と関わって――」を執筆し、『日本大学芸術学部紀要』に発表した(2020年3月)。同論文では、梅根のカリキュラム思想に注目し、梅根が会長を務めた教育制度検討委員会と中央教育課程検討委員会により提唱された「総合学習」が、いわば「総合的な学習の時間」の前史として、その潜在的可能性を先駆的に示している可能性について検討した。「総合学習」における憲法的価値による主権者育成や現実的諸問題への実践的関心へと開かれたレトリックは、「総合的な学習の時間」における個人に焦点化した資質・能力論のレトリックを、より広い社会的次元へと開いていく可能性があることを結論とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実施時期の点から最も優先度が高い聴き取り調査(インタビュー)に関して、2017・18年度に3名の教育学研究者へのインタビューを実施し、2019年度にインタビュー記録冊子を発行できたことは大きな成果と言える。ただし、本研究課題の進捗状況を全体としてみた場合、必ずしも順調に進展しているとは言えず「やや遅れている」と自己評価せざるを得ない。 本研究の全体的な目的は、近代以降の日本教育思想史における〈教育〉〈哲学〉〈政治〉の連関について、三つのテクスト群から読解することである。三つのテクスト群とは、(1)西田幾多郎のテクスト、(2)京都学派の系譜に属する哲学者・教育学者・教育実践家らのテクスト、ならびに(3)戦後教育に携わった研究者や実践家らへの聴き取り調査より創出されるテクストである。 この研究目的に照らして、上記インタビュー記録は第3群に属するものであり、この領域では一定の研究成果を挙げたものと考えている。先述の通り、2019年度にはインタビュー内容に関する学会発表を2件行い、2020年度にはこれらに基づいて所属先の紀要に研究論文の投稿するとともに、学会誌に簡潔な報告文を発表する予定である。また、戦後日本の教育学・教育実践に関わる発展的研究として、「総合学習」や「総合的な学習の時間」を戦後教育学との関連において考察する論文を所属先の紀要に発表した(2017年度および2019年度)。 また第2群に関しては、2018年度に学校儀式における国旗・国歌の取扱いに関して天野貞祐(1884-1980)の思想との関連から考察する論文を執筆・発表したことも一応の成果である。 しかしながら、第1群に位置づけている西田のテクストに関しては、筆者が年来研究に取り組んできた領域でありながら本研究課題のなかでは未だ研究の進展がないのが実情である。このため、全体としては「やや遅れている」と自己評価せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
以下の通り分節化して記載する。 (1) 聴き取り調査(インタビュー)の記録に関して2019年度に行った学会発表に基づく研究論文あるいは報告文を発表することを当面の課題としている。日本教育学会ラウンドテーブルでの発表内容を基に加筆・修正・増補を行った研究論文を現在準備中であり、『日本大学芸術学部紀要』に投稿する予定である。内容としては、三氏のうち藤田昌士氏へのインタビューの記録の概要を紹介し、そのテクストが教育学研究に資する可能性について検討するものである。具体的には、①藤田氏における教育学研究者への歩みを生い立ちに遡っての自己形成過程として略述すること、②藤田氏の道徳教育研究に即して、勝田守一のいわゆる「自主性」論を藤田がどのように受容し継承したのかを明らかにすることを課題とする。また、教育思想史学会コロキウムでの発表に関しては、共同執筆によるコロキウム報告論文の一部として、宮澤康人氏へのインタビュー内容に触れた簡潔な報告文を掲載する予定である。 (2)相対的に後手に回っている西田幾多郎のテクストの研究を進展させ、学会発表や論文投稿を行うことは焦眉の課題である。この領域の課題はさらにいくつかに細分化できる。 (2-a) 2017年2月に英国スコットランドのエディンバラ大学で行った研究発表 A Reconsideration of Nishida Philosophy and Japanese Nationalism (西田哲学と日本のナショナリズムの再考)の内容を発展させ、西田哲学をポストコロニアルの視点から再検討する日本語での研究発表・研究論文へと構成することが一つの課題となる。 (2-b) 西田の最後の完成論文「場所的論理と宗教的世界観」(1945年執筆)を国家論的観点から再検討し、人間形成における個と共同性の相剋という根本的なテーマに迫ることも課題として残されている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の支出のうち最大の部分は、インタビュー記録冊子の印刷製本費(250部で313,200円)であった。その他の支出としては、文献資料(思想・哲学・教育分野を中心とする図書)の購入費、論文執筆に必要な資料調査のための国内旅費、資料の複写料金、インタビュー記録を研究者等に送付するための通信運搬費などであった。なお、本年度は人件費・謝金については支出しなかった。 次年度使用額が生じた理由は、本年度見込んでいたインタビュー記録冊子の印刷製本費が比較的に低価格に抑えられたためである。 次年度の使用計画としては、本年度に生じた次年度使用額と本来の次年度交付額とを合算して、本研究課題の最終年度として研究成果をまとめて公表するための報告書の制作費用に充てることが大きな課題となる。作成する報告書のページ数や印刷部数にもよるが、印刷製本費として数十万円の支出が見込まれる。その他の支出としては、文献資料の購入費、資料調査等のための国内旅費、本研究ではこれまで実現してこなかった海外での西田哲学研究に関する研究状況調査・資料調査のための外国旅費、および資料調査による複写料金などを予定している。なお、文献資料の収集については、西田幾多郎や京都学派関係をはじめ、引き続き思想・哲学・教育分野を中心に収集していく予定である。いずれにしても、公的研究資金を有効に活用し、研究成果を社会に還元することに努めることとする。
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