研究課題/領域番号 |
17K04584
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
夏目 賢一 金沢工業大学, 基礎教育部, 准教授 (70449429)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大学電気教官協議会 / 古賀逸策 / フランク・A・ポーキングホーン / GHQ/SCAP / development / デモクラシー / 通信工業教育懇談会 / 電気通信研究所 |
研究実績の概要 |
2018年度は資料調査を進めながら、その成果を段階的に研究発表した。全体として、本研究テーマは当初期待していたよりも戦後日本の科学技術・産業政策全体の歴史と包括的に密接に関連していることが明らかになってきた。 外部での資料調査としては、国立国会図書館を中心に、米国公文書館、日本学術振興会、三重県立図書館(鈴鹿電気通信学園関係)などで資料調査を進めた。例えば、全国に何校かあった電気通信学園での逓信教育とその大学昇格への思惑、それに対する教養教育を不可とするGHQの方針、それと大学の電気通信教育の方針との関係について調査を進めた。また、ESS(経済科学局)が1950年から51年にかけて進めた米国の工学教育関係者の日本視察・情報交換の内実についても調査した。この情報交換ではmoral educationも議題にあがっていたが、この内実については史料を見いだせていない。さらに、戦後の電気通信研究所の再編にあたってまったく新しい概念として導入された「実用化」という日本語について、戦前での用例として日本学術振興会の事例についての資料調査を行った。 学会発表としては、まずは2017年度の研究成果を5月の日本科学史学会で発表した。それに続いて、国内では11月の科学技術社会論学会で「実用化」をテーマとして、さらに米国で10月のEthics Across the Curriculum学会および3月のAPPE実践専門職倫理学会で日本における技術者倫理の導入の歴史全体に本研究テーマを位置付けた発表をおこなった。これは本研究の米国からの評価を知るためであったが、基本的に高評価を得られ、とくにAPPEでの発表では複数の出版社からも注目していただき、本研究内容を英文で書籍化することを検討することになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
戦後日本の工学教育改善運動の最初期について、大学電気教官協議会の活動を中心に調査と分析を進めている。2017年度の研究でこの協議会の運営実態やそれとCCS経営者講座などとの関係が明らかになってきた。2018年度はこれらの研究成果を踏まえてさらにGHQの電気通信系R&D政策について調査を進めた。これらは1948年8月にその部長として来日したFrank A. Polkinghornを中心としたCCS(民間通信局)のR&D部門の活動による。このR&D部門の活動について今年度はまず電気通信研究所の設立に注目し、その初代所長となった吉田五郎が重視した「実用化」(development)概念をめぐって調査を進めた。吉田はGHQの重視する“development”を日本にはない概念として従来の「開発」ではなく「実用化」という訳語を与えて積極的に推進した。これはPolkinghornらとの共通認識になっており、Polkinghornはさらにこの“development”体制が20世紀の科学技術・産業の発展とともに組織化されるようになったことを指摘していた。この体制の変化が当時の日米の理解の相違になっていたとも考えられる。もっとも、戦前においても日本学術振興会の設立案(当初「産業技術振興院」という名称で進められた)において「実用化」という言葉が用いられていたことがわかった。そのため、日本社会におけるこの「実用化」の実態の戦前と戦後での相違について研究を進めている。また、これらの政策の推進はPolkinghornが来日した1948年8月が転換点となっており、この時期はちょうど占領政策全体としても日本の経済復興へ向けた転換点となっていた。この歴史的経緯から、工学教育改善運動および技術者倫理と戦後日本社会の民主化政策との関係についても注目するようになった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は最終年度であり、これまでの調査結果を包括的にまとめていくことが一番の課題となっている。まずは、研究成果として注目するようになった「実用化」と「民主化」という二つの観点から研究成果の再分析を進めることにした。従来から技術者倫理の日本社会への導入にあたっては、それが西洋文化に特徴的なものとして理解され、ときに敬遠されてきた。民主化という観点から分析することで、戦後日本における技術者倫理導入の歴史全体を包括的に説明できる可能性があると考えている。資料調査としては、とくに2017年度に改修工事のため十分に行えなかった東京工業大学の古賀逸策資料について再調査が必要となる。また、米国側の資料調査を進めることも検討している。 その他、これまでの学会発表を通じて、1950年に勃発した朝鮮戦争との関係において、また技術者の現場主義の戦前戦後比較において、それぞれ当時の大学教官の理解や実態の解明が2019年度の課題となった。また、吉田五郎の「実用化」の問題について、戦前の解釈や戦後の他機関との比較についても2019度の課題となっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
進められていない資料調査もあるため繰越額はあるが、これは2019年度の調査旅費等とする予定である。基本的に2018年度は研究費を順調に使用できたと考えている。2019年度予算はこの繰越額を足してもこれまでの年度より少ないため、追加調査の必要性を考えると適当な総額と考えられる。
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