研究課題/領域番号 |
17K04597
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研究機関 | 倉敷市立短期大学 |
研究代表者 |
土井 貴子 倉敷市立短期大学, 保育学科, 准教授 (00413568)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大学間協議会 / 成人教育史 / イギリス / ソーシャル・ワーカー |
研究実績の概要 |
本研究は、1918年にロンドンで設立された「ソーシャル・スタディのための大学間協議会」(以下、協議会と略記)の設立背景、設立過程、初期の活動をイングランドの成人教育史に位置づけ分析し、福祉社会における大学と社会との関係の一側面を明らかにしようとするものである。 昨年度収集した協議会の議事録によれば、協議会の目的や組織が変更される1936年までの協議会の議論の中心は、ソーシャル・スタディのなかでもソーシャル・ワーカーの養成であった。特に、大学とそれ以外の機関での養成教育をいかに差異化するのか、その方途としてディプロマから第一学位の授与をめざす養成教育の高度化が議論されている。 高度化をめぐる問題は、協議会に所属する中心的な大学であるバーミンガム大学、リバプール大学、LSE等において実施されていたソーシャル・ワーカーの養成教育が外部の機関と連携し実施されていたことによっていた。本年度は、協議会の設立背景の一つである、協議会の運営において中心的な役割を果たしたバーミンガム大学におけるソーシャル・スタディ・コースの変化をウッドブルックとの連携という観点から考察した。バーミンガム大学でのソーシャル・スタディ・コースは、労働者成人教育から始まり、バーミンガム市やセツルメントなどの外部の機関と連携しながら展開していった。その機関の一つが、1903年に組織された居住型の成人教育機関ウッドブルックであった。外部機関との連携は、ソーシャル・ワーカーの養成教育に実践的な内容を含めることや、福祉団体や機関での実習を可能にした。一方で、それを構外教育・成人教育活動に位置づけ、大学教育の周縁にとどめることともなった。第一学位の授与には、学部学科による大学教育への位置づけ、大学単独でのカリキュラム、教員、教育組織等の再編が必要であった。地域社会との関係も変容することとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在は、研究テーマ①の協議会設立の背景並びにテーマ②協議会の初期の活動における高度化の問題にかかわる、ソーシャル・ワーカーの養成の史料を収集・分析している。これまで大学側の史料を中心に収集・分析をすすめてきたが、本年度は成人教育機関であるウッドブルックの史料を整理し、分析をすすめた。ウッドブルックの年次報告書、議事録、ログブックがその中心である。大学との連携したソーシャル・ワーカーの養成において、ウッドブルックは学生の実習を全面的に担っていた。そのため、実習にかかわる教師の報告書と学生が作成したログブックにある活動をよみすすめている。 この時期、1906年以降の自由党の改革により導入された国家福祉、地方自治体による地方レベルでの福祉行政の再編、国家福祉と民間福祉との連携がすすんだ。例えば、1903年以降に地方行政と民間の福祉団体が連携して都市において救援ギルドが組織された。バーミンガムでも1906年に組織されたが、ウッドブルックでは実習の一環に救援ギルドでの実践が位置づけられた。1908年以降、学生達がヘルパーとして貧困家庭を訪問し、生活改善への助言をおこなっている。こうした救援ギルドでの実習は、学生達が貧困家庭の状況と援助を体験的に学ぶことができる場となっていた。救援ギルドでの実習が可能となったのは、ウッドブルックが成人教育機関として地域と密着をして教育を展開できたためと考えられる。また、救援ギルドでの実習は、「福祉の複合体」として捉えられる社会福祉の拡大を背景としたこの時期に特徴的な福祉実践の機会であった。成人教育機関主導での救援ギルド等での実習をソーシャル・ワーカーの養成教育の高度化という点からどのように評価できるのかは今後の分析課題である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き研究テーマ①協議会の設立前史と研究テーマ②協議会の初期の活動におけるソーシャル・ワーカーの養成教育の高度化をめぐる問題についてバーミンガム大学とウッドブルックの連携を事例として考察し、まとめ、発表する。 研究テーマ②1936年以前に展開された協議会での議論と活動についての史料を収集整理し、分析をすすめる。リバプール大学並びに文書館において協議会の史料やソーシャル・ワーカー養成に関連する史料を調査し収集する。すでに収集している1936年までの協議会の議事録並びにパンフレットをもちいて協議会での議論を明らかにする。あわせて、協議会の事務局担当として実務的な役割をになったマカダム(Elizabeth Macadam)によるこの時期の著作も分析の対象として検討する。本研究の対象時期は、第一次大戦の影響を受けて、福祉社会の再編と復興省を中心とした成人教育の再構築が議論され進んだ時期である。福祉社会の拡大と成人教育の再構築のなかに協議会がめざしたソーシャル・ワーカーの養成教育を位置づけ考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は8から9月と2から3月にかけてそれぞれ1週間程度2回分の史料収集の旅費を計上していた。しかし、8月から9月にかけて豪雨災害の影響もあり、史料収集の出張ができなかった。2020年度まで研究期間を延長し、旅費として使用する予定である。
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