研究課題/領域番号 |
17K04597
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
土井 貴子 岡山理科大学, 教育学部, 准教授 (00413568)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 大学間協議会 / ソーシャル・スタディ / イギリス / 成人教育 |
研究実績の概要 |
本研究は,1918年に設立された「ソーシャル・スタディのための大学間協議会」(以下協議会と略記)の設立背景と過程,初期の活動をイングランドの成人教育史に位置づけ分析し,福祉社会における大学と社会との関係の一側面を明らかにしようとするものである。 大学協議会の議事録によれば,設立当初,協議会は,バーミンガム大学,ブリストル大学,エディンバラ大学,グラスゴー大学,リーズ大学,リバプール大学,マンチェスタ大学,ロンドン大学(キングス・カレッジ並びにLSE),ウェールズ大学,そしてニューカッスル・アームストロング・カレッジによって構成された。当時これらの大学は,すでにソーシャル・スタディの学科やコースを組織しており,そこで貧困問題を中心とした社会問題を取り扱い,ソーシャル・ワーカーを養成していた。各大学で中心的な役割を担っていた大学人たちが,協議会に参加をした。 協議会は,ソーシャル・ワーカーの養成とリクルート先の確保,ソーシャル・ワーカーの地位向上の取り組み,国際会議への参加,Child Guidance Councilといった他の機関との連携が中心的な議題であった。最大の関心は,ソーシャル・ワーカーの養成にあった。ソーシャル・ワーカーの養成は,大学以外の教育機関やセツルメントのような団体においてもおこなわれていた。協議会にとって他の機関との差異化は,主要な課題の一つであった。その方途は,学位と結びつけた養成教育の高度化と,地方当局による福祉の拡大に応じた養成における領域の拡大であった。前者については,バーミンガム大学では成人教育からディプロマ,そして第一学位へと展開した。後者については,精神保健(Mental Welfare),病院でのソーシャル・ワーク,保護観察,警察,健康観察官といった領域にむかった。福祉社会の拡大に応じた動きであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全体的には,やや遅れている。本年度は,「ソーシャル・スタディのための大学間協議会」が設立された1918年から,Social Study and Public Administrationに名称を変えその目的を変更した1936年までの活動を明らかにするために,1935年の報告書と議事録の分析を中心にすすめてきた。 協議会の活動は,各大学におけるソーシャル・スタディ・コースのあり方をどのようにすべきかについてと,1918年教育法によって設置されることとなった補習学校の教員の養成についての議論からはじまった。その後,工場におけるソーシャル・ワーカーの養成や,社会福祉領域・保護観察などの法務領域・巡回保健師や精神保健といった健康領域など様々な領域の公的な社会福祉事業に従事する人材の育成について議論され,活動が展開されたことがわかっている。しかしながら,史資料の関係からも,本年度予定していたそうした議論を国家福祉の拡大や新たな社会福祉の展開に位置づけて考察し,発表したりまとめたりするまでには至らなかった。 協議会において,関係する大学が相互に結びつきソーシャル・スタディにかかわる共通の課題を議論し,活動を展開したことが,結果的に各大学の活動とどのように結びついたのかあるいは結びつかなかったのか,さらには大学を地域社会と結びつけることにつながったのかについては,今後の分析課題である。 コロナ禍のため,補強や確認のための史資料を得るための渡英がかなわず,一部必要な史資料が手に入らなかった。研究期間をもう一年延長することとし,来年度研究のとりまとめをおこなう。
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今後の研究の推進方策 |
ソーシャル・スタディのための大学間協議会の1918年から1936年までの活動と各大学における活動との関係を考察し,大学間協議会の意義について検討する。 具体的には,協議会で大学が相互に結びつき誰が何を議論していたのかを議事録を中心にまとめる。そうした議論を国家福祉の拡大や新たな社会福祉の展開に位置づけて分析する。大学は,相互に連携することでどのように福祉社会における当時の課題と向き合おうとしていたのかについて検討し,まとめる。 また,そうした協議会での議論と活動が,各大学でどのようなソーシャル・スタディの活動と結びついたのかを考察する。その際,協議会の中心的大学の一つであるバーミンガム大学を取り上げ,検討する。バーミンガム大学は,ソーシャル・スタディ・コースを設け,地域の成人教育機関であるウッドブルックと連携してソーシャル・ワーカーの養成をおこなっていたことはすでにまとめている。協議会の議論のなかで中心的課題として位置づけられていたソーシャル・スタディ・コースの教育の高度化と領域の拡大に焦点を当てて,バーミンガム大学の事例を検討し,まとめる。主たる史料は,大学のカレンダーや報告書(University of Birmingham, Report of the Principal to the Council),バーミンガム大学ソーシャル・スタディ委員会の議事録を用いる。研究の成果は,論文にまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、学会発表や研究交流,追加の史料調査のために出張をすることを計画しており、旅費での支出を予定していた。しかしながら、新型コロナウイルスの流行によって計画が実施できず、次年度に使用することとした。研究の取りまとめにかかる費用にもちいる。
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