本研究は、1918年にロンドンで設立された「ソーシャル・スタディのための大学間協議会:以下協議会と略記」の設立背景と過程、初期の活動をイングランドの成人教育史に位置づけ分析し、福祉社会における大学と社会との関係の一側面を明らかにしようとするものである。 本年度は、収集した史料である協議会の議事録の分析をすすめ、そのまとめに入った。対象とした期間は、協議会が規約を変更し名称に「行政」を加えて活動を拡大する前の1935年までである。バーミンガム大学のアシュリーから始まった歴代の議長たちと加盟大学や、協議会の中核的な役割を担った事務局長のヒースとエリザベス・マカダムの果たした役割、各大学が抱えていた共通の課題と展開された議論等について明らかにした。 また、第一次大戦後の復興のなかで組織されたという協議会の設立過程から、協議会が設立当初構想していた、1918年教育法によって規定された夜間補習学校の教員養成について検討した。成人教育史における夜間補習学校の展開に協議会との関わりを位置づけると、それは大学が成人教育を通じて当時の社会問題と向き合っていた事例の一つととらえることができる。協議会が目指した夜間補習学校教員の養成は、労働者教育協会といった大学成人教育とは異なった、大学と社会の結びつきであった。 協議会が最も力を入れた活動が、ソーシャル・ワーカーの養成であった。協議会は、地方行政における社会福祉事業の拡大に合わせて、指導的立場に立つソーシャル・ワーカーの養成を目指し、他組織と連携した実践的活動を含む養成コースの模索と修了後の進路の確保、大学以外の養成機関との差異化並びにコースの高度化等を図っていた。それは、大学がソーシャル・ワーカーを養成することの意義を問い続けるものであった。
|