研究課題/領域番号 |
17K04600
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
光本 滋 北海道大学, 教育学研究院, 准教授 (10333585)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大学の自治 / 大学評価 / 大学組織 / 大学財政 |
研究実績の概要 |
(1)大学の経営・行財政と学問の自由の発展を結びつける位置にある大学評価の理論化へ向けた総括的な整理と問題提起を行った。 (2)本研究では、①大学の研究・教育組織を規律する法制の不在、②大学に適合的な人件費水準決定原理の不在、③公財政支出額の決定原理の不在、④資産蓄積への傾斜、⑤大学全体への公財政支出を個別大学への配分を調整する機関の不在、の五点が、国立大学の経営とアカデミックガバナンスとの結合を阻害する、行財政制度および大学評価制度の根本的な欠陥だろうという作業仮説の下、これまで積み上げられてきた国立大学制度に関する検討の水準を確認するための資料収集と整理を進めている。 国立大学に共通する制度的問題に関しては、これまで国立大学協会が調査および改革提言を行ってきたが、主要な調査報告書も公表されているものは多くはない。そこで、2017年12月、国立大学協会事務局の協力を得て、所在する資料の確認と整理を行った。また、個別大学においても、これまで国立大学行財政制度の検討や当該大学の財政問題の解決を目的とした制度要求をまとめている例があることから、これまで入手できた関連資料の整理を行った。 (3)国立大学法人運営費交付金に関する行政的な統制が個別大学の財政・研究・教育のあり方に及ぼしている影響および大学側の対応に関して整理し、大学評価の課題に関する考察を行った。 (4)人材養成に直結する高等教育の再編政策(専門職大学・指定国立大学法人・授業料後払い制度)が実施された場合の影響について、教育学の見地から批判的な検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は大きく二つの部分からなる。一つは、国立大学法人化後の行財政制度と大学評価および大学組織の関係についての理論化、二つ目は、一の裏づけとなるデータの蓄積および分析手法の開発である。両者は密接に関連している。研究期間を通して、行財政制度の問題について仮説の検証を行うため、分析に必要なデータの確定と収集、および個別大学の組織改編の実態把握をすすめる。国立大学財政の経年変化を把握し、研究・教育組織のあり方に及ぼした影響を解明する。 このような計画に照らしたとき、現在までの進捗状況は「やや遅れている」と言わなければならない。その理由は、次の通りである。 (1)理論化のベースとなる国立大学関係者を中心とする行財政制度の検討に関する整理・分析は、1970年代までのものはおおむね完了している。しかしながら、関係者の検討の到達点と課題を明らかにするためには、1980年代以降のものも含めた整理・分析も行わなければならない。この作業には現在のところ着手できていない。 (2)国立大学財政の動向は公表資料から確認しうるものの、それが大学の研究・教育組織のあり方とどのように結びついているのかを明らかにするには、各大学の中期目標・中期計画に拠るほかない。しかしながら、実際には組織改編は中期目標を介さずに行われるケースが少なくない。そのため、公表資料を用いて明らかにできることがらは何であるのかを明確にしなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ひきつづき、国立大学の行財政制度に関する研究の総括および課題の明確化に注力する。旧国立学校特別会計の問題点をひきつぐものである。ここに法人化後の新たな要素が加わったことにより、行財政制度の問題の拡大の構造にどのような変化が、どの程度生じたかを解明することが目標となる。 国立大学行財政制度に関する検討は、1964年に成立した国立学校特別会計制度が国立大学全体の財政の弾力的運用を可能とするものであるにもかかわらず、そうした運用が行われてこなかったこと、国立大学が予算編成上の独立性を持たないこと、政府の財政権を背景として、研究・教育組織のあり方に対する統制が行われていることなどを指摘し、これらの問題を解決するために立法上の措置が必要であることまで提言している。このような検討の意義と課題を明確にするために、続く1980年代以降の検討の整理・分析に着手する。(2)現在、国立大学法人の評価・経営・財政に関して公表文書から読み取ることのできる情報を明確にするために、国立大学法人の幹事らに対するヒアリングを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
①資料収集および聴き取りのための旅行の実施回数が予定よりも少なかったこと、②収集した資料の整理の作業が予定よりも少なく、そのための謝金支出が少額にとどまったこと、が次年度使用額が生じた主な理由である。 資料収集および聴き取りのための旅行を複数回(東京1回、京都1回を予定)実施するとともに、文書資料のデータベース化、録音の文字起こし等、資料の整理の作業をすすめることにより、次年度使用額を消化する計画である。
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