研究課題/領域番号 |
17K04600
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
光本 滋 北海道大学, 教育学研究院, 准教授 (10333585)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大学改革 / 大学行財政 / 大学評価 / 大学設置基準 |
研究実績の概要 |
(1)1970年代の大学行財政改革構想の意義および課題の検討 東京大学「大学改革準備調査会報告書」(1970年)の検討過程、内容を整理し、歴史的・理論的な観点からの評価を試みた。同報告書の主要な論点の一つは、大学改革を自主的に行うための大学行政の独立であった。これは戦後大学改革論においてたびたび掲げられた課題であったが、伝統的な教員の研究・教育の自由を擁護する観点のみでなく、高等教育の拡大、大学の「大衆化」の現実に向き合う中で、教育機関としての大学の改革という観点からも必要が自覚され、体制の批判的な分析と課題の具体的な提示を行った点に特徴がある。同文書が掲げた大学の自主的な改革の方向はおおむね首肯できるものであり、ポイントとなる改革の課題を正確にとらえていたと評することができる。しかしながら、学内の改革、他大学を含む大学全体および制度改革と連動することには成功していない。その経緯、問題点等の解明はさらなる研究課題である。 (2)大学設置基準の動向、および大学改革への影響に関する検討 歴史的な観点から大学設置基準に関する論点を整理し、大学設置基準に関する研究課題の提示を行った。総合的な検討として知られる日本教育学会大学制度委員会「大学設置基準改善要綱」等研究小委員会による批判(1966)は、条件整備の基準と研究・教育の基準を峻別し、教育行財政の責任を明確にした。一方、当時の判例・学説の水準を反映し、大学教育を研究のコロラリーととらえる限界を持つ。1970年代の大学設置基準の検討は、各専門分野の学問を行いながら、青年期以降の発達=教育権を保障する高等教育制度を創造するという課題を浮上させた。だが、1980年代以降、基準の緩和が相次ぐなか、各大学の動向は学内の格差是正や経営的な観点からの改組等に傾き、大学改革の実践と大学設置基準に関する研究の架橋は妨げられてきたと言わなければならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)2019年度は、各大学が組織に対する「社会的需要」の有無を判定する基準がどのようなものであるか分析する作業を行う予定であった。個別大学の財政の経年変化を把握し、研究・教育組織に及ぼした影響を解明する。同時に、これまで不明確なままにされていた問題であった組織改編と行政上の手続きとの関係について解明する。そのために、各大学が用いた法令解釈や行政実例の検討をすすめる。以上を通じて、大学評価、組織、財政の非制度的な結びつきを明らかにするとともに理論化をはかることを計画した。この計画を遂行するため、近年政策的に提起されている教学マネジメント改革および補助金の改革に関して、データの収集・整理を行ってきた。しかしながら、新型コロナウイルスへの対策から、年度途中において研究補助者の雇用ができなくなり、作業の中断を余儀なくされた。また、関連の研究会が中止を余儀なくされたため、関連領域の研究者による専門的な検討を経ることができなくなった。 (2)大学評価・経営・行財政を構築するための基礎的な作業となる理論的研究、歴史的研究は、それぞれ進捗し著書および学会発表において研究成果を発表を行うことができた。大学評価に関しては、大学評価の基準の意義と課題を明確にすることが重要と考え、大学設置基準の動向、および大学改革への影響に関する検討を行い、研究成果を発表した。大学行財政に関しては、歴史的・理論的な観点から、戦後日本における大学行財政改革構想の検討を行い、研究成果を発表した。 これらの結果を総合し、研究の進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本来、本研究は2019年度において終了する予定であったことから、2020年度から「「1968年」以降の大学改革の高等教育論における再定位」と題する研究課題を申請し採択された。本研究において追究してきた大学評価・大学経営等に関する理論面での検討は、新規課題において継続して深めていくことにしたい。 本研究では、延長期間(2020年度)において、大学評価・経営・行財政に関する実態の解明に注力し、研究成果のまとめを行うこととする。すでに収集しているデータの整理と理論化を急ぐことにしたい。このために、研究補助者(在宅勤務)を雇用する。また、理論化の成果に関して関連領域(大学評価・大学経営等)の研究者から専門的な知見の提供を受けるために、研究会(オンラインを基本とする)の開催を追求する。
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次年度使用額が生じた理由 |
直接経費は最終年度となる2019年度中に全額使用する予定であった。しかしながら、下記の理由により、研究を遂行することができなくった。 (1)ガバナンス・教学マネジメント改革の動向に関する資料整理のために研究補助者を2・3月に雇用予定であったが、当該の者が育児中であり新型コロナウイルス感染予防のため出勤できなくなった。 (2)大学評価学会第17回全国大会(3月6日・7日、東京)が新型コロナウイルス拡大防止対策を受け中止となり、関連領域の研究者らと研究内容に関する討議を行うことができなくなった。 コロナウィルス感染拡大がさらに深刻化していることから、(1)に関しては研究補助者の交替により対応する。(2)は当分見通すことができないが、オンラインの研究会開催などにより代替の途を探る。
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