幼小の接続を考える場合、その条件の1つとして、幼児教育側の義務化という問題がある。双方が義務教育である場合とそうでない場合では、接続の制度的条件が大きく異なるからである。本研究の対象国であるスイスとフランスの場合、前者では、2007年に、スイス教育長会議の「義務教育の協調に関する州間協定により、4歳からの就学と幼児学校を含む8年間の初等教育の制度化が決定されている。一方後者では、左派の社会党により、3歳から18歳までの義務教育の延長が提案されることはあったが、右派・中道派のマクロン大統領自らが、義務教育の開始年齢を3歳とすると宣言し、「信頼の学校のための2019年7月26日付法律」により、義務教育は3歳から16歳までとするよう改正された(2020年度実施)。 本年度はその重要性に鑑みて、その成立の経緯を検討した。2018年3月27日に開催された「保育学校会議」の議長であるB. Cyrulnikら脳科学者の影響、2018年3月27日付マクロン大統領の演説とともに、フランス戦略庁の報告書等を検討した。議会における法律の審議については、2018年12月5日付の「信頼の学校のための法律案」から2019年7月26日付の成立まで、その審議過程を整理した。 フランス語圏の他国の動向を見るならば、ルクセンブルクでは、義務教育に関する2009年2月6日付法律により、満4歳からの就学義務が定められている。ただし、同国の場合、幼児教育の義務化の歴史は古く、1976年10月22日付規則により、幼稚園に通う義務が定められている。ベルギーでは、2019年5月11日付の法律により、義務教育に関する1983年6月29日付法律が改正され、義務教育の開始年齢が6歳から5歳に引き下げられた(実施は2020年度)。こうしたフランス語圏諸国の幼児教育義務化の論理の比較検討が今後の課題となる。
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