研究課題/領域番号 |
17K04605
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
高橋 哲 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (10511884)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 「人事直結型」教員評価 / 学力テスト / テニュア / トランプ政権 / ニューヨーク市 / 教育財政 / 教育平等訴訟 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果として、第一に、「人事直結型教員評価」の法制面について、連邦政府の立法政策と、これを受けた各州法の動向を明らかにすることができた。また第二に、制度運用の実態に関して、ニューヨーク市学区を対象とする調査を予定通り遂行することができた。 具体的には、2015年12月に成立した連邦法「すべての子どもの成功へ法(Every Student Success Act:以下、ESSA)」が、教員評価に関して州と学区に大幅な裁量を付与する法的仕組みを整えていること、および、トランプ政権の地方分権政策のもとで、その裁量がさらに拡大されていることが所見された。また、連邦法のもとでなされた州法改正の横断分析により、ニューヨーク州のように、従来の州法が維持されながらも州内の教員評価政策が大きく転換される事例のあることが明らかとなった。これらの分析については、2017年11月に開催された日本教育制度学会大会において報告されており、近日中に公刊される予定である。 また、連邦法、ニューヨーク州法のもと、教員評価が如何に実施されているのかを、ニューヨーク市第5学区をフィールドとして調査した。この調査により、上記の州法がそのまま残存されながらも、州教育省のBoard of Regentの決定により、教員評価にあたり州統一学力テストを用いることが2019-2020年度まで留保されていること、および、ニューヨーク市では、この州教育省の措置を受けて、各学校の校長裁量のもと、独自のアセスメント・ツールにより教員評価が実施されていることが明らかとなった。 従来の教員評価をめぐる研究は、法制面に注目した制度分析に傾斜しがちであったが、本研究では、上記のような法制面と実態面の双方を分析することにより、「人事直結型」の教員評価をめぐる連邦―州―学区―学校のダイナミズムが明からになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は、2017年4月~10月まで米国コロンビア大学に所属し、同大学のマイケル・レベル教授(Michael A. Rebell)の助言のもと、教員評価をめぐる連邦法、州法に関する分析、ならびに、ニューヨーク市内の制度運用実態に関する調査を行った。レベル教授の助言により、教員評価が人事と直結する背景には、教員テニュアをめぐる法的争点が存在すること、また、それが教育財政の不平等をめぐる問題と連関することが明らかとなった。 具体的な法制面の分析にあたっては、2015年12月に成立したESSAが、地方分権的な性質を有する一方で、各州ではオバマ政権期に策定された「人事直結型」教員評価が州法上維持されていることを検証した。その証左として、ニューヨーク州法では、教員評価を「昇給、昇格、テニュアの付与、免職その他の給与」に反映させることが、各学区、学校に依然として義務づけられている。また、評価結果を4段階に区分し、3年連続で最下位の「非効果的」と評価された教員の免職手続きについても学区に継続して義務づけられている。 このような州法のもと、各学区、学校レベルにおいて教員評価が如何に履行されているのかという運用実態に関する調査を、ニューヨーク市第5学区をフィールドとして実施した。本調査においては、第5学区の教員研修・評価担当者(Teacher Development and Evaluation Coach)にインタビューを行い、州法の運用状況に関する調査を行った。また、第5学区に所在する公立小学校において、校長、および、教員にインタビューを行い同学校内における教員評価の実態についての調査を予定通りおこなった。ニューヨーク市学区の教育行政関係者、校長、教員等へのインタビュー調査を行うことで、州法や行政規則からでは把握できない実態の概要を、当初の計画通り明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の2年目以降は、第一に、初年度の制度運用の実態に関する調査を継続し、州法や行政規則の分析では解明できない以下の2点を中心に分析する。第一に、学力テストの結果とともに、教員評価のもう一つのカテゴリーとされている「教員観察」に関する分析である。第二に、州統一学力テストの対象とされていない教科や学年を担当する教員の評価に関する分析である。特に後者に関しては、連邦法による州学力テストの義務づけが、第3学年から第8学年までの数学と国語(reading)に限定されているため、学級担任制をとる小学校低学年や、テスト外教科を担当する教員を如何に評価するのかは、「人事直結型」教員評価の一大争点となっている。本研究は、ニューヨーク市の公立学校における低学年担当教員の評価が如何に行われているのかに着目し、これら法制度の「欠缺(けんけつ)」ともいえる「テスト外教員」の評価に関する運用実態を明らかにする。 第二に、「人事直結」教員評価の法制面における分析を平行して行い、トランプ政権誕生以降の州法改正に関する横断的分析をさらに進める予定である。連邦法ESSAのもとでは、各州が同法への遵守のための州プランを策定し、連邦政府がこれを審査するという形式が取られており、2018年後半以降には、教員評価を巡る各州の改正州法が出揃うことが予想される。このため、1年目の横断分析を基礎にしつつ、突出した州法改正を行った地域の分析を行う予定である。 なお、この法制度分析にあたっては、アジア圏における教育財政の不平等と教員法制の関係を研究テーマとしているコロンビア大学のマイケル・レベル教授との共同研究関係を強化し、同教授との共同による調査と研究成果発表を実施していく予定である。
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