まず、今年度の研究活動について記す。 「障害児」をはじめとして、様々な差異がどのように学校教育制度から包摂・排除されていたのかを、1947年の新学制以降現在に至るまでを通史的に整理する試みを行い、その成果の一端を小国喜弘著『戦後教育史』の中に収録した。また、堀正嗣の研究においては、日本において展開されてきた「共に生き、共に学ぶ」運動を改めて整理し、『「共に生きる」教育宣言』として刊行し、インクルーシブ教育がどのような理念によって支えられるべきなのかを改めて明らかにする仕事を展開した。星加良司は、障害の社会モデルをさらに掘り下げ、社会モデルと学校とがどのような接点を持ち得るかについての検討を行った。 次に、期間全体における、今回の研究成果を示したい。 歴史研究においては、上述したような、戦後史のなかで、インクルーシブな価値がどのように教育実践において展開したのかについて通覧するとともに、1970年代、養護学校義務化反対運動の時期に特に焦点をあて、日本の教育実践のなかに、インクルーシブ教育をめぐる理論的な萌芽がどのように展開されていたのかを明らかにした。グッドプラクティスの調査については、大阪市大空小学校、豊中市南桜塚小学校などを調査対象とし、検討を進めた。これらについて、いまだ文字としての成果を公刊し得ていないが、職員研修プログラムへの展開など、成果の応用は進展している。理念的な研究については、サラマンカ声明・障害者権利条約などを一方の軸とし、他方に日本における共生共学運動の展開を見据えるかたちでの独自の理論化を行った。また、インクルーシブな学校生活の基盤に、子どもの声を聞き取る大人の存在を重視し、アドボカシーについての検討も進めることとなった。
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