本研究では、ドイツの公教育制度下で実定法化されたアクターとなっている、国家、教師、親、子どもという諸主体の関係性の実相から公教育の射程(Reichweite)をとらえることが目指された。研究1年目は関連研究の概括、2年目は現地調査、3年目はドイツ側連携研究者との共同研究深化、と展開してきた。結論は以下のとおりである。 公教育の射程(目的・範囲)を検討する上で不可避となる、(I)国家の学校監督、(II)学校の自律性、(III)親、子ども、教員(集団)の教育参加、(IV)教員の「教育上の自由」、という法概念の範囲を明らかにした。今日、国家の学校監督は直接作用的なものから間接作用的なそれへとシフトしている。ただし評価結果が競争的な財源配分などとは連動していない(I)。学校は教育内容・方法の両面で一定の自律性を保持している(II)。教育参加は親、子ども、教員のいずれも、学級・学校レベルから州レベルまでの活動が見られる(III)。教員の「教育上の自由」は専門性の範囲に対応して実態をともなっており、とくに授業を中心とした範囲となっている。 公教育の射程―とりわけ限界―は、不登校の問題に端的にあらわれている。実践レベルでは、学校対応、自治体対応、民間アクター対応の諸相が確認されたが、就学義務との関連で警察対応が加わる点が特徴的である。政策レベルでは、州の教育政策と自治体の福祉政策との間に不協和も生じている。 「教育上の自由」の現状については、教員にとって身近な概念と感じられている反面、専門的裁量の範囲が縮小しつつある実体も看取された。職務上の「自由」が私的なそれと誤って認識されている事例もみられた。その一方で、この概念の存在によって国家、親、子どもそれぞれとの関係に一定の境界が存在すること、教員間でも境界が存在すること、そしてそれら境界が教職専門性の内実と連動しうることが明らかになった。
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