本研究は、地域づくり活動を行う人物が、どのような要因に基づいて、積極的に活動を行うようになったのか、その意識変容のプロセスを解明することである。解明にあたっては、主に学校教育での学習評価で試行されてきたルーブリックを、日常生活におけるインシデンタルな学習の把握に応用した。地域志向人材に共通する学習経験、および地域に対する視点を質的に分析するため、地域創造に主体的に取り組むプロジェクト「金沢大学能登里山里海マイスター」プログラムの修了生を対象に質問紙調査および聞き取り調査を行った。 質問紙調査の結果からは、地域づくり活動を行う人物像について、「賞賛獲得欲求が高く、自尊肯定感が高い人材である」という仮説を検証したところ、概ね想定通りの結果を得た。「地域貢献実感が高い」という仮説を検証したところ、高い者も低い者も存在することが明らかになった。蜂屋(研究代表者)が定義した「意識変容プロセス」において、「高次レベルに到達している」という仮説を検証したところ、「地域のことについて、皆で取り組めるように働きかけることができている」という項目を除き、概ね高次レベルに到達していることが確認できた。他に、出身地(現在の地域づくり活動の場と一致する者も、していない者も存在する)に対する愛着が高い者が多いことが分かった。 聞き取り調査の結果からは、地域志向人材のライフヒストリーに着目したところ、地域活性化を促進する際の共通する型について、定量的に解明することができた。地域のキーパーソンや、移住者に関わらず、地域志向人材は「地域への愛着」思考を契機として自律的な地域活動を開始していることである。地域志向人材は、過去に「人と人」「人と地域」「人と自然」に起因する何らかの学習経験を有し、それらを世代や業種を越えた多様な主体間で共有することにより、活動を維持していることを把握した。地域活性化や地域課題に対しては、多様なアイデンティティの積極的な組み合わせによって新しい価値を生み出すという、創造社会をデザインしていく可能性が把握された。 これらの結果を踏まえ、地域づくり活動を行う人材に関するルーブリックの作成、地域づくり活動を行う人材を取り巻く社会デザイン、そしてそれらが、地域社会の側の要因とどのような相関関係性にあるのかについての綜合的な分析を開始したが、令和2年2月研究代表者の死亡により本研究計画は廃止となった。
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