研究課題/領域番号 |
17K04617
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
上原 直人 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20402646)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会教育 / 政治教育 / 公民教育 / 選挙啓発 |
研究実績の概要 |
近年、福祉国家再編にともなう1990年代以降のシティズンシップ教育の展開や、2015年の18歳選挙権成立にともなう主権者教育の展開など、日本において教育の再政治化の進行という状況がみられる。本研究の目的は、成人を対象とした「社会教育における政治教育」を理論的、実践的に深めていく手がかりを、選挙権の大幅な拡大をもたらした1920年代の普通選挙成立期(納税条件を撤廃し、25歳以上の成人男子全員に選挙権付与)に求め、社会教育における政治教育の事業や実践を歴史的に捉え返すことである。具体的には、普通選挙の気運の高まりとともに各地で有識者たち(田澤義鋪、武藤山治、岩野森之助)によって展開された社会教育における政治教育運動の実像に迫るとともに、それらが文部省や内務省による施策と連動しながら、1930年代の選挙粛正運動へいかにして接続していったのかという点に着目する。2018年度に行った研究は次の二点からまとめられる。 第一が、本研究が対象とする三人の有識者のうち、これまで人文社会諸科学において全く研究対象となってこなかった岩野森之助に関する資料収集を進めたことである。三重県伊賀地方において、医師でありながら地域の教育運動や政治の倫理化運動にも生涯を賭けた岩野に関する手がかりを得るために、当時の新聞記事(三重県版)を中心に資料収集を進めた。 第二が、すでに資料収集をほぼ終えている田澤義鋪(元内務官僚、青年団指導者)に関して、その政治教育運動の特徴を、青年団運動との関係から明らかにしたことである。田澤は、青年を対象とする青年団教育は公民教育として展開し、青年団を終えた壮年を対象とする選挙啓発は政治教育として展開し、田澤の中で、両者は立憲政治の担い手を育成するという点で結びついていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、岩野森之助に関する資料収集をある程度進めることができた。また、田澤義鋪に関しては、2017年度に引き続き、資料分析も行い、その成果を雑誌記事および論文として発表した。さらに、実業家でありながら議会活動や政治教育運動を展開した武藤山治に関しても、収集した資料および文献の分析に着手し始めた。したがって、研究目的の達成にむけて、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を、今後推進していく上では、以下の三つのプロセスが重要となる。第一に、まだ資料収集を終えていない岩野森之助に関して、2019年度前半を目安に資料収集を終えて、後半では分析を行っていくことである。第二に、資料収集をほぼ終えている武藤山治に関しては、その分析を進め武藤が展開した政治教育運動の特徴を明らかにすることである。そして、第三に、民間の政治教育運動(田澤、武藤、岩野)が、政府による施策や事業と若干のズレを持ちつつも、最終的に選挙粛正運動という形にいかに結びついていったのかを考察することである。
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