研究課題/領域番号 |
17K04621
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
臼井 智美 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (30389811)
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研究分担者 |
鞍馬 裕美 明治学院大学, 心理学部, 准教授 (50461794)
照屋 翔大 茨城大学, 教育学研究科, 准教授 (90595737)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シンガポール / 言語的・文化的多様性 / 就学前教育 / 教師教育 / 学校認証評価制度 / 学校経営 / 教育の質保証 / 学力向上 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本、アメリカ、シンガポールを比較し、外国人や移民等の児童生徒の学力向上を実現する学校経営の社会的・制度的環境の解明を行うことである。そのために2つの作業課題(教師教育にみられる外国人や移民等の児童生徒の教育保障に関する学習内容の解明。「不利な状況にある(Disadvantaged)」児童生徒の学力向上を実現する学校経営制度の解明)を設定し、文献調査と現地調査により情報収集を行っている。 平成30年度は、主にシンガポールの学校経営の社会的・制度的環境の解明に重点を置いた。シンガポールは多民族国家であることから、就学前教育段階より二言語教育を実施している。そのため、外国人や移民等の児童生徒の教育保障をめぐる日本との制度上の大きな相違として、母語教育が行われていることと、言語的・文化的多様性への理解や態度の涵養が小学校教育段階からではなく就学前教育段階から行われていることがわかった。また、能力主義政策の下で、すべての民族に対して「能力」獲得の機会が開かれており、学校教育や社会教育の果たす役割が大きいこともわかった。そこで、まずは就学前教育の教師教育に着目する必要があると考え、その制度概要の把握に努めた。 その結果、シンガポールの就学前教育の教師教育において日本との大きな相違として、職位が細分化されており能力基準が明確になっていることと、職位を上げていくために必要な知識や能力の獲得に向けて資格や研修が体系化されていることがわかった。また、教師教育のみならず、学校認証評価制度との併用によって、いわゆる指導力の部分だけでなく、学校経営などの教育環境の質の向上に関するものも教師に必要な能力の中に含まれていることがわかった。シンガポールの就学前教育の制度的特徴を明らかにすることによって、日本で教師教育と学校認証評価制度との連関がないことが課題として明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、主にシンガポールについて現地調査と文献調査を実施した。シンガポールの就学前教育の教師教育を担う行政機関での聞き取り調査や資料収集を行い、就学前教育の教師教育の体系を把握することができた。教師の役割や能力に応じて、養成教育、現職教育、管理職養成教育がキャリアラダーに応じて整備されており、各段階で獲得が求められる能力の違いも確認することができた。また、教師教育を通じた教師の質の向上が、一方で学校認証評価制度の中で、学校の教育環境の質という観点からも評価対象になっていることが明らかになった。学校認証評価制度の評価項目については資料収集の過程で確認できているが、これらの項目と教師教育との具体的な繋がりを検討する必要があることが新たに明らかになった。 平成29年度に実施したアメリカ(コロラド州)での現地調査の結果でも、移民の子どもが多く居住する学区において学校認証評価制度が効果的に運用されている実態を確認している。学校認証評価制度は日本にはない制度のため、移民等の子どもの学力向上にとって学校認証評価制度がどのように機能しているかを確認することが、今後の研究課題となることをつかむことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、主にシンガポールについて文献調査や現地調査を実施し、多言語・多文化背景の子どもに対する教育の実態把握を行った。特に、二言語教育がスタートする就学前教育について、教育の実際の内容だけでなく、その担い手である教師の育成について資料収集を行いその全体像を明らかにした。外国人や移民等の子どもの教育に関する社会的環境が日本とどのように異なるのかを明らかにすることが、本研究課題の目的の1つであるが、平成30年度は、教師教育制度と学校認証評価制度の連関という点で、日本とシンガポールでは制度的に大きく異なることを明らかにした。 平成30年度に引き続き、令和元年度は、アメリカとシンガポールの教師教育で教員志望者が学習する、外国人児童生徒や移民等の児童生徒の教育に関する一般的内容と専門的内容について、文献調査により検討を行う。あわせて、アメリカの事例に関しては、平成29年度にコロラド州で現地調査を行ったが、令和元年度は他州での実態について現地調査を行い、特に学校認証評価制度の中で、移民等の児童生徒や学力低位の児童生徒などの個別の教育ニーズに応じられる教育環境の実現がどのように評価対象として位置づいているのか、また、外国人や移民等の児童生徒の教育の質保証を実現する教育行政機関と学校との協働関係や指導助言関係についても実態把握に努める。 シンガポールの事例に関しても、平成30年度に引き続き、学力向上施策と言語教育施策に焦点化して教師教育の全体像に関する情報収集を行う。平成30年度は主に就学前教育段階について検討を行ったため、令和元年度は小学校教育以降の段階に対象を広げて検討を行う。 アメリカとシンガポールの現地調査等で収集した資料を横断的に分析することで、日本とアメリカとシンガポールの三国間で、外国人や移民等の児童生徒の学力向上に寄与する学校経営環境の相違点や特徴の抽出を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
562,984円を残した。その理由は、平成30年度にシンガポール調査を優先した結果、平成30年度中のアメリカ調査(二人分)に必要な旅費相当額を確保できない見通しとなったため、アメリカ調査を平成31年度に実施するために当該額を繰り越すこととした。なお、アメリカ調査は令和元年9月に実施予定である。
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備考 |
中橋美穂・臼井智美「シンガポールにおける保育の質評価について」『諸外国における保育の質の捉え方・示し方に関する研究会(保育の質に関する基本的な考え方や捉え方・示し方に関する調査研究事業)報告書』(厚生労働省子ども家庭局保育課委託事業)202-209頁、2019年3月
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