研究課題/領域番号 |
17K04639
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
大高 研道 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (00364323)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 社会教育 / 地域づくり / Community Learning / 学習の組織化 / 社会的包摂 / 社会的企業 / ワーカーズコープ |
研究実績の概要 |
平成31年度(令和元年度)は、地域づくりという観点から、多様なアクターが学び合う対話的空間・関係の生成論理の解明にむけたフィールド調査を実施した。その成果として、第一に、東日本大震災後の地域づくりに取り組む社会的企業(ワーカーズコープ)の実践を地域住民による協同的な知の再構成過程という観点から論じた "Reconsidering the Meaning of Knowledge Based on Experiences of Community-Based Social Education Practice in Japan"がある。第二に、「地域づくりにおける住民主体の学習活動と協同の展開過程」では、中山間地域(宮崎県五ケ瀬町)における住民主体の研究・学習活動の考察を通して、協同が生成し拡張していく学びあう地域づくり実践の論理を明らかにした。第三に、市場原理主義にもとづく資本主義経済が行き詰まりを見せる中で注目されている協同組合的事業体の現状および今後の展望について論じた「社会連帯を紡ぎ直す協同組合へ」及び『勤労者の生活意識と協同組合に関する調査報告書〈2018年版〉』等がある。 併せて、これらの研究成果は国内外の学会で報告した。とくに、ソウル国立大学を中心とした研究チームとの共同研究が始まり、(東)アジア的観点から新たな生涯学習・地域づくり・コミュニティ形成に関わる概念構築の試みに着手した点は大きな成果である。 なお、当該年度は首都圏のフィールド調査にも着手した。職住分離が顕著な首都圏では、とくに困難に直面した際の助け合いは機能化し、持続的な協同関係を構築することは難しい。関東圏4ヶ所のワーカーズコープの実践(東京・渋谷区、千葉・松戸市、神奈川・横浜市、栃木・矢板市)の現地調査を通して、協同労働とそこで展開する学習活動の検討にむけた分析枠組が補強されたものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた実証研究は概ね順調に遂行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間最終年度にあたる本年度(令和2年度)は、これまで検討してきた協同労働概念の理論的再構築の作業に充てたい。協同労働は一般的にassociated workと表記される。このことからも明らかなように、協同労働は共同体的なcommunityとは異なる自律的市民を基盤としたassociation的性格を有するものと理解されてきた。しかしながら、機能で結びつくassociationが健全な社会や人間らしい暮らしを取り戻すためには、限られた協同(職場、サークル活動、社会運動等)の枠を超えて、多様なステークホルダーが多様な形で関われる空間・関係の形成が不可欠となる。 そのことは、労働概念理解の捉え直しが求められることをも意味する。近代化の過程で労働は生活から切り離され、もっとも程度の低い営み(アレント)とみなされるようになった。しかしながら、労働は人間の類的本質であるというマルクスの理解に即せば、むしろ問われるべきは、生活と労働の分離ではなく、両者が分断された状態であろう。その意味では、働きがいのある労働(Decent Work)とともに、その労働の成果が他者の生活や命にかかわっていることへの想像力(多様な営みの循環の中で我われの暮らしが成り立っているというつながり意識)を如何にして取り戻し・育むかが焦眉の課題となり、分断を乗り越える意識化とそれを支える協同的な学習実践の生成論理の探求が重要になってくる。 おりしも、現在、「協同労働の協同組合法」(仮称)が制定される見通しである。法制化が実現されれば、地域住民や労働者が自ら出資し、働き、運営する新しい働き方が可能となる。そのためにも、「協同労働」の本質と包摂的な社会の建設に向けた基本視座を提示することが求められている。本年度は、実証研究の成果も踏まえ、その実践論理の構築に尽力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの世界的な蔓延によって、2-3月に予定していた調査・研究会を実施することができなかった。いまだにコロナウィルス収束の見通しが立たない中で、状況を見極めながらオンライン調査・研究会の開催など、柔軟に補足調査計画を見直し、謝金や報告書の作成などにその費用をあてたい。
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