研究課題/領域番号 |
17K04639
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
大高 研道 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (00364323)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会教育 / 地域づくり / 協同労働 / 社会的包摂 / 地域学習 / 労働者協同組合法 / 社会的企業 |
研究実績の概要 |
平成31年度(令和元年度)の主たる研究活動は、協同労働概念の再検討である。2020年12月に「労働者協同組合法」が成立した。同法の当初の草案は「協同労働の協同組合法」となっており、わが国としては初めての「働くものの協同組合」法である。その一方で、協同労働概念が制度的に確立していないわが国においては、人間らしい働き方・生き方の実現や地域づくりとセットで論じられてきた協同労働が、単なる「稼ぎ」としての労働に矮小化されることが懸念される。その課題と可能性について包括的に論じたのが「労働者協同組合法制定の現代的意義と協同労働の展望(上)・(下)」である((下)は2021年7月刊行予定)。また、学会報告「協同蓄積と教育」では、社会的企業(労働者協同組合)による地域づくりの取り組みを題材に、とりわけ協同の矛盾を止揚する試みの中に地域学習の意義を見いだそうと試みる本研究の問題意識に即してその理論枠組みを整理した。 なお、後述するように当該年度に予定していたフィールド調査および研究総括報告会はコロナ禍の影響もあり、実施することができなかった。他方で、生活困窮者の相談支援事業を行っている労働者協同組合「板橋生活仕事サポートセンター」、コロナウィルス対応の最前線である医療現場(医療生協さいたま)など、コロナ禍においてもっとも困難な状況に置かれている現地調査を実施した。これらの調査を通して、これまでの協同・協働と地域学習の蓄積がコロナ禍の現在の行動につながっていることが明らかになり、今後の研究の理論補強・再構成にむけた多くの示唆を提供してくれるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の影響で、当初計画していたフィールド調査を十分に実施することができなかった。とりわけ中山間地域や社会的困難な状況にある人びとへのヒアリング調査は、オンライン化対応への移行がスムーズにいかなかった。よって一年間の科研費助成事業期間の延長を申請した次第である。その一方で、生活困窮者自立支援や医療現場など、コロナ対応の最前線で活動している組織へのヒアリング調査と文献レビューに集中して取り組みことができ、協同労働の実践的・理論的枠組みの再検討・再構築作業は一定程度の目途が立った。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間最終年度にあたる本年度(令和3年度)は、フィールド調査(補足調査)と最終報告書の取りまとめが中心的な作業となる。2020年度(令和2年度)は本研究にダイレクトに関わる2つの事柄が起きた。一つは、コロナ禍による失業者の増加である。それは非正規雇用に代表される不安定雇用、貧困・格差といった従来から社会が抱えていた問題を浮き彫りにしたといってもよい。包摂的な社会の形成が一層困難な状況に陥りつつある中で、コロナ禍下の現在とポストコロナの社会を構想するという視座を組み込んだ議論枠組の再構成は不可欠となる。二つは、労働者協同組合法の成立(2020年12月)である。法律成立から施行までに2年間と定められているが、その期間内に協同労働の基本視座と実践理論を確立・提示することが求められる。これら2つの視点を組み込んだ実証研究の成果を踏まえ、研究総括に尽力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で、当初計画していた実証研究等を実施することができなかった。とりわけ中山間地域や社会的困難な状況にある人びとのヒアリング調査は、オンライン化対応への移行がスムーズにいかなかった。しかし、Zoomでのヒアリング調査や研究会の体制も整備されつつある。本研究の特質上、可能な限り対面調査の可能性を探りつつ、柔軟な形で調査を実施したい。依然としてオンライン中心の調査活動になりそうな場合は、交通費などを調査仲介等の委託料や謝金にあてたい。
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