当初の研究期間を一年間延長した最終年度となる2021年度(令和3年度)は、協同労働の実践概念を2つの側面から調査・研究した。一つは、労働者協同組合法(2020年12月成立)を中心とした組織(事業体)内での協同労働を「狭義の協同労働」として捉え、その実態を「意見反映原理」をキーワードに検討した。具体的には都内の三多摩地区のワーカーズ・コープの現地調査を通して、労働者組合員間の話し合いの実態をパウロ・フレイレの反対話-対話的行動理論を参照しつつ、対話的行動の成立を妨げている要件と実現条件を明らかにした。 二つは、協同労働を組織内の協同に止めず、利用者や地域住民との協同を通した持続可能な地域社会の実現に向けた協同労働(広義の協同労働)の展開条件を検討した。分析の焦点は、働く者の協同を軸としながら、その協同がコミュニティの協同・連帯の形成および潜在化していた協同や他者へのケアの思想が立ち現れてくる相互学習論的プロセスの解明である。実践分析を通して明らかになったことは、法律が前提とする狭義の「協同労働」と、市民が実践の中から構築してきた広義の「協同労働」は必ずしも対立・矛盾する概念ではなく、むしろ焦眉の課題は、両者がどのような相互作用を生み出すのかという点にあることを指摘した。そして、そのプロセスには多様性を認め合い、潜在能力を高めあう対話的協同学習が重要な役割を果たしていることを明らかにした。 これらの研究成果は、国内外の学会報告(日本教育学会、EMES International Research Conference on Social Enterprise、日本社会福祉学会等)および関連研究誌で発表した。
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