研究課題/領域番号 |
17K04641
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研究機関 | 十文字学園女子大学 |
研究代表者 |
上垣内 伸子 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (90185984)
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研究分担者 |
向井 美穂 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (40554639)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 0~2歳児の教育 / 保育観察 / インタビュー調査 / 海外調査 / 教師の教育観 / 関係のなかの教育 / 子ども同士の関わり |
研究実績の概要 |
本研究は、0~3歳児のための質の高い教育を保障するために市独自で幼保一体化を図り、0~6歳までの一貫した教育/保育をおこなっているイタリア、ピストイア市の0,1,2歳児保育に着目し、乳児期からの学びを支える保育援助のあり方と、その基盤となる保育観が保育者集団の中でどのように共有化されて園全体の保育の質を高めることにつながっていくのかを明らかにすることを目的としている。1年目である2017年度は、2018年2月に、ピストイア市の公立保育園2園および行政職を対象に調査を実施した。 調査概要:(1)観察調査:0歳児、1歳児、2歳児(年少グループ)、2歳児(年長グループ)クラスの保育実践場面の観察とビデオ撮影(9:00~午睡前)。子どもと保育者、子ども同士の関わりややりとり、環境構成や教材の提示に着目。 (2)聞き取り調査:保育観察の翌日に担当保育者へのインタビュー(教師の教育観、前日の保育のねらいと援助の意図など)。 行政職へは市の教育方針。(3)カンファレンス参加:保育者の発達観、保育観がどのように保育者集団の中で共有化され、共同の発達観、保育観を形成していくのかの把握。 観察と聞き取り調査から、ピストイア市の0~3歳の保育においては、子ども自身が興味関心をもって始めた遊びを核として保育を構想していること、その際に子ども自身の驚きや疑問を尊重し、感動や疑問を土台にものとの出会いから深い思索が生まれるような関わりと環境構成を試みていることがわかった。子ども同士が自然に関わり合いお互いの驚きや気づき、行動意図に気づき合い共有しながら遊ぶことを重視し、自然な子ども同士の関係が生まれるような環境設定を試みていた。「一人で遊び学ぶのは楽しいが、友だちと遊び学ぶのはもっと楽しい」という、子ども同士の関係を活かす教育の視点が0歳から一貫してみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、1年目には0歳児の保育場面の観察と保育者への聞き取り調査を計画していたが、同一の保育園で0歳、1歳、2歳児クラスの保育場面と保育者への聞き取り調査、保育カンファレンスへの参加、市の乳幼児教育担当者へのインタビュー調査、保護者との協働の保育実践を試みている保育者からの情報収集、2つめの保育園での1、2歳児クラスの保育観察を行うことができた。そのため、豊富な観察とインタビュー、カンファレンス参加からのデータが得られた。調査時期が年度末であったため、データの分析は現在進行中である。また、これまでの調査で得られた資料により、ピストイア市の0~3歳児の教育を含む乳幼児期の教育に対する教育観を整理して、保育学会に発表することができた。 ピストイア市での調査前後に、これまで子育て支援の共同研究を行ってきたフランスとイタリアの研究者との意見交換の機会をもつことができた。彼らもピストイア市の保育を対象として研究を行っており、今回の調査後のローマにおけるディスカッションは、これからの研究方略を検討する上で大変有益なものとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2年目、3年目も、当初の研究計画に沿って、調査を実施する。 1.ピストイア市の調査:2017年度の調査から、ピストイア市の保育では、子ども同士の関係を学習の基礎にする教育観を保育者が共有し、0歳から一貫して子どもの興味関心を中心において協働的な思索と温かな共生を尊重する保育実践を行っていることがとらえられたので、イタリア語の翻訳と記録の詳細な分析をおこない、具体的な場面やエピソードを抽出し、更に考察をすすめていく。その考察に基づき、発展的な調査を計画する。 2.国内調査:国内の保育園、幼稚園、こども園の保育者を対象として、保育カンファレンスを行う。ピストイアでの観察場面を題材とし、映像と記録等の資料を提示して、それぞれの年齢クラスでの保育場面において何が育っているととらえているのか、保育者の保育意図をどのようにとらえているかなど、ピストイアの保育についてディスカッションし、0~3歳児の全人的(ホリスティック)な発達を促す保育援助と環境構成についての示唆を得る。また、日本の保育者の0~3歳児の遊びを通しての学びのとらえ方、発達観、保育観の特性を明らかにすることも試みる。 成果の報告については、2018年度は、2017年度の調査結果の報告書作成や学会等での発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度の調査を、大学の春期休業期間である2月に実施したために、保育者へのインタビュー調査と保育カンファレンスのイタリア語から日本語への翻訳作業が2018年度にまたがっての依頼となった。そのため、2017年度の翻訳資料作成の予算として計上していた20万円が2018年度の支出予定となり、それが2017年度の残額として示されている。翻訳作業はこれまでのピストイアでの調査研究の翻訳を依頼してきた方に依頼済みで、作業中である。2018年度の使用計画には、この翻訳に伴う持ち越し予算の使用以外に変更はない。
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