研究課題/領域番号 |
17K04649
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
塩崎 美穂 日本福祉大学, 子ども発達学部, 准教授 (90447574)
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研究分担者 |
加藤 繁美 東京家政大学, 子ども学部, 教授 (00191982)
大宮 勇雄 仙台大学, 体育学部, 教授 (10160623)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 保育実践評価 / 保育者の専門性 / 保育記録 / 潜在的可能性 / イタリアの保育評価 / ニュージーランドの保育評価 / 保育計画 / 保育カリキュラム |
研究実績の概要 |
近年、知識や技能の習得だけで子どもの育ちを評価せず、能動的参加や熱中的探求など、知識や技術をもとに「自ら課題に向かい参画する姿」を含めて評価し学びの潜在的可能性(「ポシブル・セルフ」)を保障する必要が説かれている。「ポシブル・セルフ」とは、「自分がなってみたい理想像」であり、自分の行動を方向づけ、変化させ、発達の方向を私たちに示す働きをし、「自己」を評価する拠り所になるものである。それは他者との比較ではなく、「かくありたい自己」に照らして現在の能力や属性を「可能性」として希望をもって評価することを可能にする。「主体的学び手active-learner」を育てるうえで大変重要な指標であり、学習意欲や規範意識にも関連している。にもかかわらず、日本の保育実践評価においては、実際に「到達していること」による見えやすい評価が主流であり、見えない(見えにくい)潜在的可能性については意識的に評価の俎上にあげられていないことが多い。 こうした状況に鑑み、本研究では、参加や探求を重視し、ポシブル・セルフが見えてくる保育評価が実際にどのように実践されているのか、日本、ニュージーランド、イタリアを調査し、すべての子どもに質の高い保育を保障するための基礎データを収集することを目的とする。ここまで3ヵ国の歴史的文化的保育実践の背景を踏まえ、保育カリキュラム・デイリープログラム・保育者養成・現任研修・保育記録などを参与観察やインタビュー等から調査し、保育者の専門的な子ども理解や保育技術の伝達過程を比較検討してきた。 これまでの調査によって、保育実践評価において、①「実践後に保育計画planとの整合性を評価する」ことと「実践の最中に子どもを理解(評価)するassessment」との間に、保育実践者は齟齬を感じやすく、評価の仕方に難しさを抱えることがわかってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度のニュージーランドの保育評価を調査しに現地に赴いた。その際、翌年平成29年度の日本保育学会にて日本の保育研究者および保育実践者にむけ「ニュージーランドの保育評価について」マーガレット・カー教授からの講演が実現するよう、打ち合わせも行ってきた。その打ち合わせの内容が、ニュージーランドの保育評価を理解する上で、たいへん有用な情報となった。以上のように、ニュージーランドの調査および報告は予定通り終えている。 その後、平成30年度、これまでの基礎データ収集および視察調査成果を踏まえ、イタリアの視察調査を実施した。これも当初の予定通り、イタリアのトスカーナ州およびエミリア・ロマーニャ州における保育実践評価について、情報収集することはできた。また、その調査報告についても、シンポジウムおよび学会で報告を終えている。 以上の視察調査および視察報告によって、保育実践者にとって評価とは、「実践後に保育計画planとの整合性を評価する」ことと「実践の最中に子どもを理解(評価)するassessment」との間に齟齬を感じやすいものであることがわかってきた。 とくに日本の保育実践者は他国の保育者に比して計画(プラン)とアセスメント(子ども理解)に矛盾を感じやすく、評価の仕方に難しさを抱えることがわかってきた。実践者が評価しづらいということは、保育・教育の目標の複雑性がうまく整理されていないということにつながっている。保育ひいては教育の目標は一つではない。指導と能力の関係についても、単純なインプットとアウトプットで数値化することはできない。こうした「不確実」で「予測不可能」な事態に対し、いかにその状況を評価(理解)するかを探ることが今後の課題として残されている。
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今後の研究の推進方策 |
どの地域でも、保育実践の質を高めるためには実践記録が重要だと考えられている。ただし記録を書く過程で、子ども自身が「意味を作り出し、世界を創造する主体」であるかどうかを省察(評価)する仕方には、地域によって違いがある。 日本は「保育者に付き合いの良い子ども」を良しとするような「社会適応的子ども観」が記述において優勢になりがちであり、「社会を創り出す主体」として子どもを位置づける「社会創造的子ども観」へと子ども理解を転換する必要があることを多くの保育者が感じている。記録を書くことで子ども観が転換し保育の質が良くなっていくよう、より一層、記録の分析をしていく必要がある。 保育記録が保育への投資効果を「説明責任(アカウンタビリティ)」として果たすだけではなく、社会に参画する主体としての子どもへの「応答責任(レスポンシビリティ)」として機能するかどうか、正解を求めるための省察ではなく多様な「物語」を理解する手立てとして活用可能かどうか、模索していく。計画と評価の齟齬については、「計画」「プロジェクト」など、日常的に語られる保育実践用語の捉え方が人によって多様であることについて再考する必要があることがイタリアへの視察調査からわかってきた。 想定外のことが起きないことを前提としたPDCA(plan計画→Do実行→Check評価→Act改善)サイクル から、想定外のことが起きることをみこしたOODA(Observeみる→Orientわかる→Decideきめる→Actうごく)ループ(loopみなおす/みこむ)へと変化するビジネスモデルの趨勢や、「プロジェクト型の保育」の「プロジェクト」の意味など、あらためて検証していきたい。保育の日常にあるルーティーンを自明のこととして不問にせず、<保育の計画をたてる>ことや、<評価すること>についても、より包括的かつ原理的に考察を深めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に即し、平成30年度中(平成31年2月下旬)に、保育実践評価に関する視察調査としてイタリアの保育施設を訪問した。インタビュー調査や参与観察は、当初の予定通り行っている。このイタリア視察渡航費については、翻訳作業、データ処理作業、視察訪問報告シンポジウム開催などが完了し次第、使用費の執行手続きをする。すでに当該年度中内に視察訪問自体は果たしているが、その後の報告会に連動した翻訳作業などがあり、執行手続きに時間を要している。渡航費用などについて、次年度使用額に繰り越し、処理することとした。 以上のように、研究計画上とくに変更点はないが、イタリア訪問にかかわって、自主シンポジウムの開催が平成31年3月、年度をまたいだ令和元年5月に保育学会開催となっており、支出については次年度での執行とする。
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