研究実績の概要 |
ヴェネツィア市立古文書館で収集した史料をもとに、イタリア最初の公立幼稚園(Il Giardino dell'Infanzia comunale)の設立の経緯を明らかにすることができた。史料は、幼稚園設立者であるユダヤ系ロシア人エーレナ・ラファロヴィッチ・コンパレッティ(Elena Raffalovich Comparetti,1842-1918)とヴェネツィア市との交渉記録、コンパレッティが市に寄付した金額とそれにまつわる契約書、ヴェネツィア市が契約を結んだ職人リストと報告書、幼稚園で使用するフレーベル恩物のドイツへの発注書や受取書、幼稚園開園式への招待客リスト、園庭への植樹の内容や予算等、1873年から1874年のおよそ300枚の史料を読み解くことによって、以下の項目の通り幼稚園設立の経緯を整理・再構成した。 ①カンナレージョ地区の幼稚園と女子師範学校の位置関係、②幼稚園開園までのコンパレッティとヴェネツィア市との交渉記録、③幼稚園の整備(1建物、2園庭、3教具・教材、4備品、5人材、6幼稚園のプログラム)、④幼稚園へのアドルフォ・ピックのかかわり、である。 再構成する中で明らかになったことは、a,ヴェネツィア市がヴィヴァンテ(ユダヤ系)邸に幼稚園を開設することを提案したこと、b,園児のための机やいすを製作する業者は入札で決められたこと、c,幼稚園の建物修復が未完成のまま幼稚園開園式を行ったこと、d,コンパレッティの実家からの寄付に夫の承認が必要だったこと、e,ヴェローナ女子師範学校校長コロミアッティにアドヴァイスを受けていたこと、f.フランジーニ邸の女子師範学校が幼稚園に近接していたこと、g.ヴェネツィア市は幼稚園より女子師範学校を重視していたこと、h.幼稚園の保育内容に名称練習や読み書きが行われていたこと、i.幼稚園は託児所や幼児学校と混同されていたこと、である。
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