本研究は、明治期から大正期のキリスト教系幼稚園における音楽活動の特性について、残存する楽譜、日誌、雑誌などの史料の分析をとおして明らかにすることを主眼とした。 昨年度までの研究成果として、キリスト教系幼稚園が米国の新教育思想を積極的に採用し、音楽活動のなかに創造的な表現および身体を用いた表現を導入するといった新しい試みを行っていたことを示した。 本年度は、キリスト教系幼稚園における当時の日誌、JKU(Japan Kindergarten Union)の機関紙および当時JKUが編纂した曲集を分析し、当該幼稚園における音楽活動に関する情報交換の状況および日本の幼児教育関係者との関わりについて考察した。JKUの会員は、年次総会および機関紙への投稿論文等を通じて、米国の幼稚園の音楽活動に関する情報を共有していた。彼らは、他の子どもと協同した創作および身体表現により、音楽活動をとおして他者と共生する力をつけることを重視していた。以上の研究成果を踏まえ、キリスト教系幼稚園の音楽活動が日本の幼稚園の音楽活動にいかなる影響を及ぼしたかについて今後さらに史料を収集し精査していく。 本研究課題であるキリスト教系幼稚園の音楽活動の特性については、次のことが明らかとなった。明治期から大正期の日本のキリスト教系幼稚園では、米国から来日した宣教師が主体となり、キリスト教信仰を基盤とし、フレーベルの教育思想を神との関わりのなかで理解したうえで,米国の新教育思想を柔軟に採用した。これにより、当時の日本のキリスト教系幼稚園の音楽活動において、他者との繋がりをとおした自立心の育成・創造的な表現・自由な身体表現が実現したと考えられる。
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