研究実績の概要 |
先進諸国では、1980 年代頃より、国・地方公共団体による伝統的な学校統治方式に対して、新たな方式の模索が進められてきている。イギリスでは1988年教育改革法により、学校に自律性を与えるとともに、学校選択の自由化により学校間に競争が導入された。さらに近年は「協働」も強く奨励する教育政策が採られている。これは、学校統治の観点からは「自律・競争・協働」による学校統治方式と捉えられる。この方式は、官僚統治や専門職統治に代わる優れた学校統治の方式になり得るのかを検討することが本研究の課題である。 今年度は「保護者の評価」と自律・競争・協働の関係を再分析した。その際参考としたのがMorris, R.らのフリー・スクールの研究(2019)である。この研究ではフリー・スクールを選ぶ根拠として「小規模校」であることが見いだされた。なおフリー・スクールは、様々な学校種などのうち「自律性」がもっとも大きい。この点に着目し、学校規模および学校種と「保護者の評価」の関係を分析した。その結果、フリー・スクールには多くの他の学校種に比べて評価が高いことが見いだされた。したがって、自律性は学校の正統性確保のための重要な要素となると仮説的にいえるであろう。また、学校規模は小さい方が、親の評価は高くなる傾向が見られた。つまり、自律性の高さと小規模との組み合わせに、より正統性を高める可能性がある。 さらに、上の分析枠組みを競争および協働にも適用した。その結果、競争、協働の影響力は認められなかった。このように競争と「保護者の評価」との直接的関係は認められないものの、「学校選択制度」は不可欠であると考えられる。黒崎の「抑制と均衡」論は学校選択により正統性を与えるものだからである。つまり、小規模校を前提とする「選択と自律」モデルが今後検討すべき有力な学校統治の方式あると考えられる。
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