本年度は、1970-80年代に簇生した公教育批判の諸実践を支えた教育思想と、それらを生み出す基底にあった社会認識・社会批判とを明らかにするため、(1)公教育内部の実践改革としての個別化・個性化教育運動、(2)欧米発のオルタナティブ教育から不登校児童生徒の受け皿へとシフトしていくフリースクール運動、(3)学習塾のベンチャー経営から事業グループ化を達成する教育・受験産業の事業化の展開、それぞれの関係者への聞き取り調査と関連文書資料収集の最終作業を遂行した。また、当時の運動体・事業体が今日まで継続されている事情とそこでの実践の具体相とを把握するための実践観察調査もあわせて遂行した。そのうえで、1970-80年代に生まれたそれらの教育思想・理念と批判的社会認識とが有する歴史的意義を、19-20世紀転換期に日本の公教育システムが確立されて以降の約1世紀以上にわたる時間軸に位置づける理論的・分析的作業を行った。当時の公教育批判の諸実践に特異な共通性として、同時代に成立していた「総中流」社会認識を背景に、「画一的」な「学校」への「批判」が「同質的」な「社会」の自明視とその「改革」(差異化)の必然性の召喚とに無媒介に直結されていた点を明らかにした。そのことが20世紀日本に形成された教育=福祉レジームのその後の流動化をもたらす有力な動因のひとつとなった可能性を見出した。後者の論点を把握するための理論的・歴史的枠組みを検討し、その成果の一部を「近現代日本の国家・社会と教育の機能」(社会政策学会)として発表した。
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