本研究は、不登校児家族の自助グループの中核を担う人びとの生活史の解明を企図したものである。2021年度には、2020年度に引き続き、入手した資料・データの分析、整理を行った。その結果、これまでの作業を通じて確認された諸点、すなわち、(1)不登校児家族の自助グループのリーダー層は、「地域密着型」と「広域ネットワーク形成型」に大別可能であること、(2)地域密着型のリーダーは強い紐帯に基づく社会関係資本に支えられたアイデンティティを形成する傾向があるのに対し、(3)広域ネットワーク形成型のリーダーは「不登校をめぐる問題を契機に今日の社会や自己のあり方」を問い直す、再帰的かつ展望的なアイデンティティ(B.Bernstein)を形成する傾向がみられる点が引き続き確認され、最終的な知見を得ることができた。 上記に加え、広域ネットワーク形成型のリーダー層は、アイデンティティ構築の過程において強い紐帯と弱い紐帯の双方を資源として使い分けており、弱い紐帯をアイデンティティ構築の資源として参照する傾向があるものの、日々の「親たちの会」の活動においては強い紐帯にも意義を見出しつつ、自らのアイデンティティを構築している様相が明らかにされた。 第二に、2020年度に引き続き、「親たちの会」が定期的に発行している会報を収集・分析し、掲載記事の内容について分析を行った。(1)いわゆる社会的ひきこもりに関する情報、(2)福祉に関わる情報の比重が近年増している傾向性、(3)不登校をめぐる法制度の変化(いわゆる「教育機会確保法」)の帰趨をめぐる議論が活性化する様相を確認するとともに、(4)新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機に、子ども・若者たちにこれまで以上に過度のストレスがかかり、それが不登校をめぐる状況を悪化させていることが懸念された点が新たな論点として浮上したことが明らかにされた。
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