研究課題/領域番号 |
17K04681
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡邉 雅子 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (20312209)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イラン / 作文教育 / 思考表現スタイル / ペルシャ語教育 / 国語教育 |
研究実績の概要 |
2019年度は、イラン初の作文教科書が初等教育から後期中等教育まで12学年全て出版、公開されたため、翻訳が完成した部分からこの分析作業に取りかかった。最も大きな特徴は、小学校から高校までの書く教育の「段階的なグランド・デザイン」が見て取れることである。子どもの身近な題材から始まり、文学的断章(作文)、レポート、高校3年の学術論文と多様な手紙の型が到達点として締めくくられる「書く教育」の一貫した形が教科書に明確に現れている。「学術論文の書き方」に至っては、高校生の小論文の域を超える専門的な型が豊富な例やイラストとともに解説され、実践例も示されており、高い到達点が示されている。しかし、本研究が注目するのは、イランの思考法と表現法を体現した書く型があるのかどうかである。イラン独自の書く型としては、初等教育から後期中等教育まで繰り返し現れる「ことわざ」の敷衍と「詩」の理解(説明)が、コンクールと呼ばれる大学入学資格試験のペルシャ語の問題と直接的に結びついている。この他、「四季・革命・宗教・道徳」について書く作文が該当すると考えられる。これらの書く型に共通するのは、結論に見られる「定型」である。その他の知見としては作文教科書を見る限りは論証型の小論文はイランでは教えられていないことが分かった。学術論文の書き方の紹介はあるが、高校で生徒が実際に書くことは想定されていない。イランの大学入試は多肢選択問題のみで論述問題が課されないことも関連すると思われる。 また、アメリカのエッセイと比較すると、主張(結論)を先に述べるエッセイ型の作文がイランの作文教科書で見られないのは、結論を先に述べてしまうと、イランの場合はロジックとして成り立たない作文の展開パターンがあることも分かった。この点に関しては、作文のテーマとも深い関係があると考えられ、2020年度はこの点について分析を深めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、政情不安とコロナウィルスの影響で現地調査及び3月に予定していた研究会を行うことができなかったが、小学校1年生から高校3年生までの国語(ペルシャ語)と連動した作文教育の資料に出会うことができたため、現地調査ではなかなか掴めないであろう「書く教育」を含めたイランの言葉の教育の全体像の理解が可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度も、現地調査を行う事は困難であることが予想されるが、12学年の作文教科書の完全翻訳を資料として(2019年度には完成できなかった)、より詳細な分析を行い、イランの思考表現法の特定へと研究を進める。イランの「書く教育」の歴史についても2019年度には行えなかった研究会及び文献調査を通して、現代の教育分析と並行して行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
政情不安とコロナウィルスの影響で2019年度にイランでの現地調査が行えなかったため。
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