研究課題/領域番号 |
17K04684
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
村上 登司文 京都教育大学, 教育学部, 教授 (50166253)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 平和教育 / 戦争体験継承 / 当事者 / 当事者意識 / 次世代 |
研究実績の概要 |
戦後73年が経過して、戦争体験の継承活動が滞りがちとなっているので、若い世代への体験継承を研究課題とした。戦前生まれを戦争体験第1世代として、第1世代との関係から、戦後生まれた時期から、第2世代、第3世代、第4世代の3つに分類した。現在の若手教員は第3世代で、小学生は第4世代に分類される。当事者との人間関係について、「当事者性」を当事者との近接性を示す指標とし、当事者性を大小で示した。戦争体験の継承では、戦争体験第1世代が当事者であり、第3・第4世代の当事者性を高めることにより、体験継承活動への当事者意識を高めることができるとした。戦争体験の継承では、「原爆被爆体験」が被爆者と支援者との共有物とされるように、平和ガイドや伝承者が体験継承を共同で行うことにより戦争記憶として継承されていく。現在は、戦争体験者の高齢化と減少により、戦争体験の直接的継承から間接的継承へ移行している。戦後73年が経過する中で、戦争体験継承に地域別相違が生じ、また継承方法が異なってきている。 戦争体験継承への当事者意識を育てる実践方法を検討する一つとして、「戦争の悲惨さや残酷性の教え方」のテーマで平和教育授業研究会を開催した。戦後73年が過ぎた今、子どもや若者にとって日本が行った戦争をリアルに感じることが難しくなった。第2次世界大戦の戦争被害や戦争加害の悲惨で残酷な非人間性を教えるためには、子どもたちがトラウマにならないように戦争題材を提示する必要がある。反戦意識を高めるために、単に戦争の残酷さを提示するのは心情的方法を用いた決めつけ(教化の一つ)になる。戦争の非人間性(悲惨さや残酷さ)を評価し(レイテイング)、死生観の教育を参考として生命の教育をおこない、戦争体験継承の活動に関わることで、若い世代の平和教育への積極的態度を形成する教育方法を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①戦争体験の継承に対して当事者意識を持たせることについて:京都教育大学の授業「平和と教育」において、受講生に「戦争体験継承の活動」を課して、学生自身による継承活動についてデータを収集している。分析の枠組みとして、(1)戦争体験継承の実践方法(戦争体験者から直接聞く方式、それ以外の方式)、(2)継承の題材(直接聞いた内容、視聴した動画・手記の内容とその掲載場所;「NHK戦争体験アーカイブズ」など)、(3)誰に伝えたかの継承対象者、(4)実践方法、継承の日付、第1段階が体験者から直接聞き、第2段階は体験談を誰かに伝える、(5)継承の効果・成果について学生自身に考察させた。提出レポートの分析から、戦争第3世代が、戦争体験を継承する実際と効果について考察を進めている。 ②現在生じている紛争や戦争に対して当事者意識を持たせることについて:紛争が多発する中東に位置するイスラエルにおいて、学校での平和教育の位置づけや、平和に向けての教育方法などを調査した。2018年2月に行ったイスラエルの実地調査では、ハイファ市のThe Hebrew Reali SchoolのDr. Yossi Ben-Dov校長からイスラエルの教育について面接調査をした。テルアビブではMeitar High School高校のDr Keren Raz-Netzer校長から高校教育について面接調査をした。Givat Haviva(The Center for a Shared Society)ではDr Yaniv Sagee氏から平和教育について面接調査した。面接調査資料や文献資料を基にして、イスラエルと日本の平和教育の相違について比較分析を進めている。 ③アカデミズムの視点から、平和的課題への当事者意識を育てる実践方法について:平和教育授業研究会を、2018年3月に「戦争の悲惨さや残酷性の教え方」のテーマで開催した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究では、戦争体験継承に対する当事者意識を次世代に育てる教育の比較社会学的研究を継続して行う。戦争体験継承に対する当事者意識をいかに育てるかをさらに分析する。過去の日本の戦争体験の継承に対して当事者意識を持たせる方法と、併せて現在国外で生じている紛争や戦争の解決に対して当事者意識を持たせる方法を、実証的に研究する。次の3つの領域で研究を進める。 第1に、戦後70年が過ぎた現在において、戦争体験の継承に対して当事者意識を持たせる。研究方法として、①広島や沖縄での平和ボランティア養成講座のカリキュラムや、受講生の学習実態について、受講生やボランティアガイドに対して面接調査を行う。②NHKの「戦争証言アーカイブズ」などを用いた授業として、小学校で証言ビデオを用いた授業を行い授業観察する。③京都教育大学の授業「平和と教育」において、前年度と同様に受講生が戦争体験継承の活動を行い、学生自身による継承活動についてデータを集める。当事者意識の形成についてもデータを集め検討する。 第2に、現在生じている紛争や戦争に対して当事者意識を持たせる。研究方法として、①イスラエルで、パレスチナ人との和解の教育実践について、学校訪問をして授業観察を行う。自国の占領政策で生じる平和的課題の解決のための教育実践を観察する。②ドイツの戦争遺跡が、児童生徒の校外学習にどのように利用されているかを調べる。ドイツの学校におけるナチス時代についての政治教育の実態を調査する。戦争以外の平和的題材を扱う平和資料館を訪問し、市民の平和啓発について実態を調べる。 第3に、アカデミズムの視点から、平和的課題への当事者意識を育てる実践方法を考察する。研究方法として、平和教育実践における当事者意識の形成方法に関して、平和教育学者の交流により、戦争体験継承への当事者意識形成について研究の深化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)イスラエルの学校を訪問して校長等に面接調査を行って、平和教育の実地研究を行った。現在、ハイファの1校に質問紙調査を依頼しているが、調査対象校の充分な選定とそれに基づいた依頼が進んでおらず、本格的な調査実施に至っていない。また、平成29年度に予定していたドイツでの実地調査が計画通り進まなかった。そうした状況のため、海外出張の回数が減り、旅費などの支出が縮小した。また、2018年3月に平和教育授業研究会を一度開催したのみで、平成29年度中に平和教育研究者を多数招聘して研究会を開催するには至らなかった。平成29年度に計画していた平和ボランティアガイドなどへの面接調査を次年度に持ち越し、広島や沖縄への実地調査を充分に行うことができず、国内旅費も縮小した。上記理由により次年度使用額が生じた。 (使用計画)平和教育の国際比較のため、平成30年度はイスラエルの一定数の中等学校で、質問紙調査を実施することを計画している。質問紙調査についての相談や実施についての調整のため、イスラエル訪問が増える。ドイツについても、戦争遺跡が児童生徒の校外学習にどのように利用されているかを調べる予定である。平成30年度には、広島や沖縄の平和ボランティアガイドへの面接調査を行うなど、実地調査を計画している。
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