研究課題/領域番号 |
17K04687
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松井 真之介 神戸大学, 国際文化学研究科, 協力研究員 (70533462)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒズメット運動 / ギュレン運動 / イスラーム / アルバニア / フランス |
研究実績の概要 |
当年度は2017年9月と2018年3月の2度にわたり、フランスにおいては全日制学校2件、補習塾1団体3件、研究団体1件、アルバニアにおいては全日制学校4件、大学2件を訪問し、参与観察および関係者へのインタビューを行った。 調査の内容に関する実績としては、まずこの研究の大きな動機である「2016年のトルコのクーデター以降、ヒズメット運動の学校はどのように変容したのか、その理由と社会的背景」について、訪問した各学校からそれぞれの事情に基づいた経緯と回答が得られた。 フランスにおいてはヒズメット系諸団体は、エルドアン大統領と同様にヒズメット系を敵視する他のトルコ人ディアスポラにより襲撃され、少なからぬ団体が閉鎖されるという現象が見られた。ヒズメット系学校や補習塾においてはクーデター以降「トルコ系子弟の減少」と同時に「非トルコ系子弟の増加」という変化があらわれたが、これは運動外部からは、トルココミュニティの内輪もめが学校をターゲットとして起こることから、「やはりトルコ人主体の学校である」という認識を加速させると同時に、運動内部では「ヒズメット運動の脱トルコ人化=普遍化」につながると認識されていることが確認できた。という点に絞られるだろう。 またトルコ国家とエルドアン大統領の圧力により、バルカン諸国でヒズメット運動は急激に力を失っているが、唯一アルバニアにおいてはその教育活動が予想外に浸透しており、加えて明確なエリート養成の意識をもって教育活動を行っている点が顕著であった。これはアルバニア現大統領がこの運動を支持し、子息をこれらの学校に入学させていることからも分かるだろう。さらにヒズメット運動が経営する私立の全日制学校「メドレセ(「イスラーム学校」の意味。イスラーム圏では「神学校」を指す)」ではエリート養成目的でキリスト教の子弟が複数通っていることも確認されたことは特筆すべきだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度の、フランスにおける参与観察はほぼ予定通りであり、この点は順調な進展と言えるが、ベルギーの学校に未だ再訪できていない点は厳しい評価を下さないとならないだろう。 その代わり、当初の予定にはなかったアルバニアのヒズメット学校およびヒズメット系諸団体の訪問が可能となり、しかもそこでの参与観察において非常に多くの新しい知見を得たことは、当初の計画以上に進展していると評価されてよいだろう。成果発表に関しても、論文1件、研究発表1件、招待講演1件、関連書評1件があり、この点も順調な進展といえよう。このように総合的に判断すると、「おおむね順調に進展している」と言うのが妥当であろう。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きフランスのヒズメット系学校の調査を進めるが、今後はその教育内容に注目していく必要があると考えているため、今年度以降は教育内容中心に調査を進める予定である。教育内容の中でも、特に市民性教育に注目したい。というのも「トルコ系コミュニティ」「ヒズメットコミュニティ」と、フランスのコミュノタリスムに抵触する恐れがあるように思われるこれらの学校が、いかにして「フランスの市民性」というのものを捉え、教えているのかということは、フランスにおけるこれらの学校の存続において非常に重要であると考えるからである。 アルバニアに関しても引き続き同様の調査を進めていく予定である。アルバニアに関しては、周辺のバルカン諸国と同じく、いつこの運動が壊滅させられてもおかしくない状況にあるため、早めの調査が必要であろう(事実、隣のコソボ自治共和国では2018年4月に関係者が拘束されてヒズメット運動にさらなる圧力がかかっていることが確認されている)。アルバニアにおいては、ヒズメット学校のエリート主義的教育から判断し、その教育の国際性というものに注目しながら調査を進めていきたい。 トルコ国家とエルドアン大統領が世界中の小国にヒズメット運動の鎮圧への圧力をかけているため、その関連団体の数は世界的にも一時期よりかなり減少しているが、その中でもまだ減少率の低いカザフスタンやジョージア(グルジア)に関してもなるべく早い時期に調査を広げることを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年3月の海外出張が年度またぎであったため(2018年4月7日までの出張)。
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