研究課題/領域番号 |
17K04689
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
児島 明 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (90366956)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ニューカマー / 第二世代 / トランスナショナルな生活 / 教育経験 |
研究実績の概要 |
ニューカマー第二世代に固有の教育経験について理解を深めるために、主に三つの方法で調査を実施し、以下のような知見を得ることができた。 第一に、国内・国外の最新の研究動向を把握した。とくに欧米における移民第二世代のトランスナショナルな生活に関する諸研究からは、ホスト国における同化とトランスナショナルな生活の多様な関連のありようについて多くの示唆を得られ、本研究を進めていく上で有効な分析枠組に関して検討することができた。 第二に、ブラジル人が多く居住する島根県出雲市において、第二世代の教育支援にかかわる二つのボランティアベースの取り組みに注目し、計13回のフィールドワークを実施した。一つは、ニューカマーの小学生を対象とした放課後学習支援教室での参与観察である。日本人とブラジル人のスタッフが運営する教室に自身も支援ボランティアとしてかかわりながら、スタッフ、子ども、保護者へのインタビューを実施することで、日本での生活や学習・進路等に関するそれぞれの思いに触れることができた。とりわけ、将来の職業として教師を希望する第二世代の事例においては、家庭、学校、地域における受容や排除の経験が複雑に絡み合いながら動機が形成されている現状が明らかになった。もう一つは、高校進学に向けた学習支援教室での参与観察である。日本人スタッフが運営する教室にやはりボランティアとしてかかわることで浮上したのは、第二世代の高校進学の困難は、言語のみならず、制度、家庭、労働市場をめぐる問題が複雑に交錯しながら生じている現状であった。 第三に、幼少期から日本で暮らす20代の日系ブラジル人青年3名に対するライフストーリー・インタビューを実施した。この予備的な調査により、親が保持する「帰国の物語」との距離のとり方という観点から第二世代に固有の同化やトランスナショナルな経験を理解することの有効性について検討することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目については、(1)本研究を国内外の最新の研究動向に適切に位置づけること、(2)研究目的に適した調査地の模索、(3)第二世代の教育観形成の解明を目的とするライフストーリー・インタビューの本格的な実施に向けて予備的なインタビューを行うことを主な目的として研究を進めてきた。 (1)については、本研究を、広くは移民第二世代のホスト国における同化とトランスナショナルな生活の関連の解明をめざす一連の研究群に位置づけた上で、ニューカマー第二世代の経験を日本に固有の政治的・経済的・社会的・文化的文脈を十分に考慮しながら理解することの重要性をあらためて確認することができた。ただし、検討した文献はアメリカのものが中心であったため、より広く国際比較の視点をもつためにも、ヨーロッパ諸国を対象とした文献の読み込みが課題として残っている。 (2)については、ニューカマーの増加が著しい島根県出雲市を中心にフィールドワークを実施してきた。出雲市は山陰地方では唯一「多文化共生推進プラン」を策定した自治体としてニューカマー住民の生活支援に力を入れており、地域における子どもの教育支援もさまざまな形で模索されている。1年目は、ニューカマーの子どもの教育をめぐる政策、支援活動、連携の現状をまずは理解し、関係者との信頼関係を築くことに力を注いだ。10回以上の調査訪問で参与観察とインタビューを重ねながら、今後のより本格的な調査にむけての基盤づくりはできたものと思われる。 (3)については、日系ブラジル人第二世代の教育経験に関する予備的な調査として、女性2名、男性1名へのライフストーリー・インタビューを実施した。3名の事例はいずれも、同化の多様なありようと、それに対するトランスナショナルな移動の影響をあきらかにするものであったが、対象者数については、ジェンダー・バランスを考慮しながらさらに増やしていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進め方については、国内調査と海外調査それぞれの観点から、以下のように考えている。 まず国内調査については、第一に、島根県出雲市でのフィールドワークを継続し、ニューカマー第二世代の教育経験や教育観の形成に学校、家族、地域が及ぼす影響について内在的かつ多角的に検討する。初年度の調査のなかで浮上した一つの課題として、ボランティアの学習支援により高校進学を果たした日系ブラジル人青年のさらなる進学支援があるが、この点に関する複数の支援現場での参与観察及び当事者へのインタビューを継続することにより、学校段階の移行と支援環境の変化が教育経験ならびに教育観の形成にどのような影響を及ぼすかを解明したいと考えている。その一方で、調査対象地域を中国地方ないし東海地方において追加し、出雲市の状況と比較したいと考えている。第二に、日系ブラジル人第二世代の教育経験及び教育観の形成に関するライフストーリー・インタビューを継続する。年齢としては20代から30代を想定しており、学歴や性別のバランスを考慮しながら進めていくよう心がける。対象者については、これまで調査を通じて知り合った人々の協力を得ながら、機縁法により増やしていく予定である。 次に海外調査については、日本のニューカマー第二世代の経験との比較対照を目的として、日本からカナダに戦後移住したいわゆる「新移住者」の第二世代の経験に注目し、彼ら/彼女らの教育経験や教育観の形成に関するライフストーリー・インタビューを実施する。バンクーバーないしトロントに在住する日本人・日系人の協力を得ながら、機縁法により対象者を増やしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
文献調査のために予定していた図書の購入が年度内に困難になったため、次年度使用額が生じた。発生した次年度使用額については、予定していた文献の購入に使用する予定である。
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