研究課題/領域番号 |
17K04690
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
恒松 直美 広島大学, 森戸国際高等教育学院, 准教授 (60363008)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 留学生教育 / 異文化適応 / 再適応 / 逆カルチャーショック / 日本留学 / 多国籍留学生 / 文化的差異 / 感情知能 |
研究実績の概要 |
「日本留学での適応と帰国後の再適応が多国籍留学生に与える影響のホリスティックな研究」と題した本研究の目的は,日本の大学に留学した多国籍の留学生の日本への適応と帰国後の再適応や逆カルチャーショックの体験が再来日の行動に与える影響を明らかにするとともに,その問題をより大きなホリスティックな枠組みで捉えることである。留学を学生の人生の自己形成の一部として捉え,アイデンティティの流動性や世界観の変容に着目し,留学前・留学中・帰国後を含む日本留学に関わる様々な体験と感情が再来日も含む留学生の人生に持つ意味と影響について分析するものである。 留学前の状況,日本に留学中の適応状況,帰国後の再適応の状況と今後の展望について多国籍の留学生へのインタビューを継続して実施した。また,海外大学における再適応の支援システムや留学体験を生かすための支援の施策について調査を継続した。さらに,多国籍交換留学生のグループプロジェクトの一環として留学生自身が自国の大学の支援システムについて調査し発表する場を設け相互理解を高めた。 日本への留学生の文化多様性に着目した適応・再適応の研究を深めるため, 国民性の指標や文化的距離の研究で知られるHofstedeの研究機関であるHofstede Institute (Helsinki, Finland)で開催された"Intercultural Management”に参加した。また異文化間理解をより深く洞察する目的でWinter Institute of Intercultural Communication Seminar(Santa Fe, USA)の"Emotional Intelligence”のセッションに参加し,新しい知見を得ることができた。文化的差異や感情知能をどのように視野に入れて異文化間適応の多面的要因を分析していくかについて模索中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外留学者と海外滞在者の適応と帰国後の再適応に関する先行研究に基づき,適応と再適応,カルチャーショックと逆カルチャーショックについてのこれまでの研究で重要とされている概念をより詳細に整理した。多国籍留学生の留学前・留学中・留学後のインタビューに基づき,実際に適応と再適応に影響を与えた主要概念について詳細に整理しつつある。広島大学短期交換留学プログラム(HUSA)に参加した留学生について,2015-2016年度, 2016-2017年度,2017-2018年度,2018-2019年度及び過去参加した100名を超える留学生に英語または日本語でインタビューを実施した。その結果,留学生の留学前・留学中・留学後の流れと変容が明らかになるとともに,文化的・社会的・個人的要因など複雑な要因が適応と再適応に影響を与えていることが明らかとなってきた。 交換留学生以外にも範囲を拡大してインタビューを行うことで様々な状況がもたらす相違も見えてきた。日本に留学した多様な文化的背景を持つ留学生の個々の体験について深い質的調査が進行できている。各学生が深い内面を語る中,留学中の適応と帰国後の最適応との関連性についても貴重なデータを得ている。再来日が決定した学生や実際に再来日している学生へのインタビューも行うことができた。 海外大学における再適応の支援システムや留学体験を生かすための支援の施策について,多国籍留学生のグループプロジェクトの一環として,留学生自身が調査し発表する場を設けたことで,留学後も含め留学を総括的に捉える場も構築できている。Hofstedeの "Intercultural Management,” "Emotional Intelligence”のセミナーに参加したことで,日本との文化的差異と感情知能の理論を含めた異文化間適応・再適応の分析について思考しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
実施したインタビューと調査をもとにデータを整理しつつ理論と概念化を明確にし,さらにインタビューを行っていく。特に帰国後の変容について幅広くインタビューする。ナラティブを分析しつつ,留学生の体験についての日本留学中の感情や留学後の認識にも注意を払いつつ,日本と留学生の自国との文化的差異や感情にも着目し考察を進める。規律性,計画性,組織や社会秩序,人間関係構築などの特性の差や日本社会の価値づけについて帰国後述べるケースも多く,文化的差異による影響も小さくない現実が見えてきた。留学生の文化的背景による適応・再適応の状況の違いと,留学後の人生選択や再来日との相関性についても整理しつつ,インタビューを発展的に進める。 また,感情知能とリーダーシップ・ディベロップメントに関する理論や実践,方法論やツールについてさらに理解を深め,実践を通して学ぶため,2019年10月にアメリカで開催されるEmotional Intelligenceに関するセミナーへの参加を予定している。また2020年3月に開催予定の"Winter Institute of Intercultural Communication (WIIC)”(アメリカ)にも参加予定である。2019年3月に参加したWIICで出会った,ダイバシティー,インクルージョン,異文化間リーダーシップ専門の研究者をアメリカのUniversity of Nebraskaより招聘し,共同で公開研究セミナー「多文化環境におけるリーダーシップ育成と変革的協同」を7月に開催する。理論と実践について国際レベルで知見を高め,留学生の適応・再適応の体験のホリスティックな研究の洞察力を高める。留学生の帰国後の日本との関わりや再来日行動,年月を経て変容する日本に対する見解についても多面的に分析し,適応や再適応のための教育や支援体制に関する学生の見解や要望についても掘り下げていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,2018年度に参加を企画したアメリカで開催された学会の参加費用が,当初使用を目的として計画していた額(121,860円)を少し超えていたため,それを他の経費から出したため。
翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画: アメリカで開催される"Emotional Intelligence and Diversity Train-the-Trainer Session" (2019年10月14-18日, UCLA Conference Center, Lake Arrowhead, CA, USA)に参加予定。参加費・宿泊費・交通費等に使用予定。
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備考 |
研究者作成の研究・教育ホームページ(上記サイト) https://home.hiroshima-u.ac.jp/ntsunema/
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