研究課題/領域番号 |
17K04703
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
苑 復傑 放送大学, 教養学部, 教授 (80249929)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高等教育政策 / 機能分化 / 国際協力 / 制度設計 / 一流大学研究 / 財源投入 / 平等意識 / 格差 |
研究実績の概要 |
29年度は本研究実施の初年度であるため、中国高等教育の政策動向、とくに大学の制度設計、機能分化、国際協力の三点について、その展開戦略と体制、実態に関する文献、情報の収集を行った。また政府部門関係者、個別大学の担当副学長、関係教職員、学生などにインタビュー調査も実施した。さらに実証分析のデータを得るために、中国国家統計局の出版社などで統計資料の調査収集、インターネットによる情報収集も日常的に行ってきた。 2017~2018年は、中国では文化大革命が終了し、学力入試による大学生の募集を復活した40年という節目の年である。人材養成、科学研究の質・量とも、経済成長とともに、大きな成長を遂げてきた中、大学の教育研究環境、資源の供給と獲得、教育研究の国際交流の内容と水準も天変地異のように変貌してきた。 持続的な改革開放政策も内外の政治経済の環境変化によって、大きな転換期を迎えている。共産党の第十八回大会後、反腐敗運動、政治統制が厳しくなり、高等教育の大衆化、重点化、国際化のベクトルにおいて、新しい制度の導入、様々な政策的制限が設けられるようになった。 個別大学に対する現地調査の結果によると、共産党のイデオロギーの統制によって、社会科学などの文系のベテラン教員が口を閉ざすような傾向が生じている。「世界一流大学建設」または、世界先端の科学技術研究レベルへの接近は、研究施設への財源投入、研究者教員の待遇水準の大幅な向上によって、実現しようとしているが、それに付随する制度設計が大学間、大学部門間、教員間、地域間に大きな格差を生じさせている。 インターネット時代の情報流通による平等意識の浸透が、膨大な資金の一角投入、傾斜配分に対して、社会から、大学人から大きな問いかけもしていることが明らかな現実となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際政治経済環境が変化する中で、中国の高等教育政策も変化しつつある。 29年度では中国の重点大学、開放大学、教育行政部門の三つのセクターにおいて、実態調査を行った。高等教育の大衆化に伴って、生涯学習が展開されつつあり、ハルビンラジオテレビ大学のような遠隔教育機関が転換期において、どのような制度設計、機能分化を行っているかについて、学長や教員などに対して訪問調査を行った。高等教育の更なる重点化の推進は、双一流大学・学科の制度設計、大学のガバナンスと人事制度の改革と人事評価管理について、再制度化した背景と過程についても聞き取りを行った。 北京大学などでは、更なる競争的な新人事制度を導入し、二つのトラックの給料、昇進制をとっており、教育間の格差の拡大は教育研究の現場に大きな反響を及ぼしている。 情報とデータの収集はインタネットと統計資料の両方で進め、研究はおおむね計画通りに行ってきた。 先端科学研究を政策に重視する中国社会に日本の科学研究成果を学術交流の実践として、放送大学のテレビ特別番組「ノーベル物理賞の受賞者の対談」の「ノーベル賞科学者の軌跡①私が感化された教育とは」、「ノーベル賞科学者の軌跡②どう鍛えられ研究を深めたのか」出演:益川敏英(名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長)、梶田隆章(東京大学宇宙線研究所長)、2本の映像(各45分)の中国語への翻訳を監訳、デジタルメディアの開発を進めた。日本と中国の教育と学術研究交流の素材として、中国、香港、台湾などで広めていく努力と同時に、本研究課題の遂行を助長し、研究討議と研究者意見交換の一つの媒介にしていた。
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今後の研究の推進方策 |
2018年初頭に起きた米中貿易摩擦の中、2018年5月28日、習近平が中国科学院士の大会で次のような講話を発表した。①中国は強盛と復興を図るために、科学技術を大いに発展させ、世界の主要な科学研究センター、創成の基地にならなければならない。②自力更生、自主創新を趣旨としなければならず、コア技術はもらえず、買えず、求められないものである。③エンジニアは人類進歩のエンジンであり、かつ産業革命、経済発展、社会進歩の梃である。④創新は未来を決めるものであり、改革は国運に関わっており、科学技術は絶えず改革しなければならない領域である。 今後の施策としては、a研究者の創造的な活動を不合理な経費管理、人材評価システムから開放する。b自主革新は開放的な環境の下で行い、自己閉鎖して行うことではなく、四方八方の力を借りる。c静態的な評価によって、人材に対する永久的な称号を与える評価方法を改革する。d論文数、特許数、資金の量に基づく評価基準を改変する。e数多くの報告、評価、審査をもって、科学者の研究時間を充填することなく、科学者を尊敬し、次の世帯の科学者の養成に力を入れる。 新しい国内外の環境変化の中、今後中国の高等教育と科学研究の経費管理、人材評価制度、人材誘致方法、国際交流の展開において、更なる制度改革と統制が生じることが予想される。本研究は引き続き、統計データの収集と解読及びインタビューなどを推進し、研究計画にそって、研究課題を解明していきたいと思う。
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