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2018 年度 実施状況報告書

経済転換期における中国高等教育政策の背景と浸透過程

研究課題

研究課題/領域番号 17K04703
研究機関放送大学

研究代表者

苑 復傑  放送大学, 教養学部, 教授 (80249929)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード米中摩擦 / 大学制度設計 / 機能分化 / 国際協力 / 中国の高等教育政策 / 大学のグローバル化 / 千人計画
研究実績の概要

中国は驚異的な経済成長の中で高等教育を拡大させてきたが、経済成長自体が減速し、新しい発展メカニズムへの転換が課題となっている。高等教育においても、これまでの量的拡大から質的高度化への転換が模索されている。この研究ではそうした改革の基軸を、「大学制度設計の明文化」、「機能分化」、「国際協力」の三点に整理し、それがどのような背景から導かれたのか、またそれがどのような高等教育政策として具体化され、現場に浸透しつつあるのかを、政策・制度の分析と大学現場での実態調査で明らかにすることを目的としている。
平成30年度の研究活動では、中国が設計・実行してきた「長江学者計画」、「千人計画」等の先端科学技術人材の誘致制度に関する米中の分岐に着目した。アメリカ連邦政府情報局は上記計画に加入した科学者の米国の知識財産権の侵害の有無について調査を始め、強い警戒感と危機感を社会や大学人の間に呼び起こしている。米国の教育・研究機関に所属している華人科学者の実験室の閉鎖、スパイ容疑の訴訟、失業・自殺などマスコミの報道やネットで広がっている情報を収集・整理した。こうした作業を通じて、これまでに以下の知見を得た。
中国の経済成長は、アメリカとの様々な面での協調の中で展開されてきたが、高等教育はそうした協調体制の一つの核となってきた。しかし最近は中国の経済的・政治的地位の上昇、米中両国における政治情勢の変化を背景として、こうした構造が揺るがされている。そうした動揺は中国の高等教育政策、大学のあり方にも大きな変化を生じさせざるを得なくなっている。こうした変化がどのような経緯を経るかについてはさらに来年度の研究をつうじて明らかにしたい。
なお高等教育のICT活用、高齢化社会と高等教育、という日本と共通の課題についても調査を行った。これについてはその一部の成果を発表したが、さらに具体的な点について研究を進める。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

この研究は中国の高等教育改革の基軸を、「大学制度設計の明文化」、「機能分化」、「国際協力」の三つの軸から整理し、それがどのような背景から導かれたのか、またそれがどのような高等教育政策として具体化され、現場に浸透しつつあるのかを、政策・制度の分析と大学現場での実態調査で明らかにする、ことを目的としていた。
平成30年度の研究においては、主に現地調査・文献調査をもとに、現実の中国の高等教育で進んでいる変化、その背後にある様々な葛藤についての知見を得ることを主眼とした。中米の軋轢を背景として、学生の学習内容、留学、就職、学科、専門、教育課程の編成や教育改革にまで影響する側面が表れている。多様な文化・価値観、学術思想の交差の中で、共産党による指導強化との矛盾は、大学の教育研究現場に深く及んでいる。大学でのインタビュー結果に表れているように、資本主義と、社会主義との間の相違が現実的に曖昧であり、貧富の格差と既得利権の維持、特権の享受、政府の大学への予算の傾斜的な配分政策等が大きな不平等を生じさせていることが明らかになった。
ただし、こうした状況はきわめて複雑で流動的であり、それを上述の三つの軸から整理する、という作業にはまだ及んでいない。そうした分析作業を行うことが、次の段階の課題となっている。

今後の研究の推進方策

進捗状況で述べたように、これまで中国の高等教育の発展においてきわめて重要な役割を果たしてきた米中協力が、経済的・政治的な米中摩擦を背景として、大きな危機に立たされている一方で、中国政府の国際的な地位向上への要求が、大学の競争力の拡大、その実現のための大学への強力な管理、インセンティブ政策を生み出し、それが大学の中に深刻な葛藤を生み出してきていることが明らかになった。
しかしこれまでの調査ではまだ十分に把握できていない側面も少なくない。とくに大学における葛藤は、その背後に大学の管理運営上の基本的な特性にかかわる論点を含んでおり、政治的にも微妙な点が多い。また中国の高等教育をめぐる情勢は刻々と変化しており、最新の情勢を把握することも不可欠である。こうした観点からハルピン大学、北京大学、清華大学、華中科学技術大学、厦門大学、北京郵電大学、中国科学院の物理学研究所、中国教育戦略学会での資料収集とインタビューを継続して行う。またアメリカにおける中国人学生、研究者の動向も重要な課題である。平成30年度にはハーバート大学、MIT、ボストンカレッジの中国人留学生、華人科学者・研究者にインタビュー調査を行ったが、それを通じて経営したインタネット上のネットワークを通じて、米国大学に留学している留学生の学習動向、就職動向を追跡する
以上の作業によって獲得された知見を、研究計画にしたがって「大学制度の設計」、「機能分化」、「国際協力」の三つの軸にしたがって整理する作業を行うことが、最終年度にあたる今年度の課題である。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 中国の教育社会学2018

    • 著者名/発表者名
      賀曉星・苑復傑
    • 雑誌名

      教育社会学事典

      巻: 1 ページ: 154-155

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 日本大学教育管理体制的現状と課題2018

    • 著者名/発表者名
      苑復傑
    • 学会等名
      日中協会
    • 招待講演
  • [学会発表] 日米中の大学教育におけるICT活用2018

    • 著者名/発表者名
      苑復傑
    • 学会等名
      第1回世田谷市民大学公開講座/放送大学連携事業
    • 招待講演
  • [図書] 情報化社会におけるメディア教育2019

    • 著者名/発表者名
      苑復傑
    • 総ページ数
      30
    • 出版者
      放送大学教育振興会

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公開日: 2019-12-27  

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