本研究は、中国の経済成長の減速期において、その高等教育政策がどのような転換をとげ、それが各高等教育機関にどのように浸透しているかを、実証的に明らかにすることを目的としたものである。 その基礎として中国政府の発表する各種の政策文書、教育統計などを整理するとともに、その信頼性をも検討した。とくに政策文書をもとにした分析では、中国の高等教育政策が、①引き続きアメリカをはじめとする先進国との積極的な交流を推進して国際的な高等教育ネットワークの重要な一環としてのプレゼンスを高めようとすると伴に、②特に科学技術面での国際競争力を高めるために多数の研究者をアメリカなどに計画的かつ多様に派遣する政策をとり、③他方でアジア・アフリカからの多数の留学生を招致して、側面から「一帯一路」の世界戦略を支える、という三方面の政策をとったことを明らかにした。 中国の大学における現地調査の結果からみれば、こうした政策は中国の大学に急速に浸透したといえる。中国の大学は研究面での水準を一気に高め、とくに学術論文の生産においてはアメリカにつぐ地位を獲得するに至っている。また留学生の受け入れも飛躍的に拡大し、とくにアフリカからの留学生の受け入れは定着している。また大学評価、教員の人事政策、なども進んでいる。このような形で中国の大学は、グローバル化のダイナミズムの動きに巧みにのり、短期間で飛躍的な変容をとげた。 しかし研究最終年の2019年ころを転機として状況は大きく変化している。長く10%程度であった経済成長率は6%に低下した。他方でアメリカは中国の台頭に危機感をもち、中国からの留学生、研究者の受け入れを著しく制限する一方で、中国への情報漏洩の疑いでアメリカ人研究者を逮捕するなどの事件も生じている。これは中国の高等教育がこれまでの革新の契機を失い、新しい困難に直面する可能性を示している。その解明が次の課題である。
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